EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第1回:望ましいラインケア研修とは?

他の記事を見る

『人事マネジメント』2011年12月号

保健同人社は1946年に創業し,結核の啓蒙雑誌『保健同人』を創刊しました。その後,日本で初めて人間ドックを創案,1969年には『保健同人家庭の医学』を発行しました。その間,読者の方々から様々なご意見,ご相談をお受けしたことから,1988年には電話健康相談『笑顔でヘルシーダイヤル』,翌1989年には『心の相談室』を開設しました。以来,ストレス社会と呼ばれて久しく,メンタルヘルス対策は企業のリスクマネジメントとして無視できない経営課題となっているのが実情のようです。この連載では,EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)の事例から,様々な課題とその解決策をお伝えしていきます。

研修実施を検討している中堅企業の事例から

『ここ数年,メンタルで休職や退職する従業員が増えてきました。まずは研修から実施しようと考えているのですが……』A社は中堅の製造業です。国内数ヵ所に工場があり,本社機能は東京が担っています。メンタルヘルス問題に対して,これまで特に困ったことはなく,困らなかったがゆえに対策も取ってきていなかったとうかがいました。組織がメンタルヘルス対策に取り組む際,最初に検討される代表的施策の一つがメンタルヘルス研修です。メンタルヘルス研修には大きく分けて管理職向けであるラインケア研修と,一般従業員向けであるセルフケア研修があります。他にもハラスメント問題対応研修等があります。当社へのご依頼ではラインケア研修が多く,その狙いは管理職にメンタルヘルスの基礎知識を持ってもらい,部下のケアをしてもらいたい,というものです。A社でもまずは管理職研修を実施したいとのことでした。

メンタルヘルス研修で重視したいポイント

メンタルヘルス研修を企画する際,ご担当者様に押さえていただきたいポイントがいくつかあります。とりわけ重要な点は以下の4つです。

1 対象者,人数,研修時間を決める

研修企画を立てる場合,人数の検討は基本です。多くの方に1度に受講いただく場合は講演形式となります。ただし,受講者数が増えるとそれだけ注意・集中力は分散し,記憶の定着率は下がる傾向があります。30名程度で区切ることができれば,グループワークが実施できますが,各自が考える時間,グループで議論する時間を想定すると,最低でも180分程度をご検討いただきたいところです。

2 受講後のゴールイメージを持つ

「1度の研修で今起きている問題をすべて解決させる」という目標設定には,残念ながら無理があります。メンタルヘルス対策に特効薬はありません。「少しの心がけを長く継続させること」に尽きます。「メンタルヘルス? よく分からないな」という状態から,「基本的な知識は分かった。誤解や偏見もあったな,そのくらいのことなら明日から早速実行してみようか」という程度の意識を持っていただくところまでが,第1段階ではないかと思います。目標として低すぎると思われるでしょうか。しかし,分かった気になって,実は何もしていないという方は意外に多くいらっしゃいます。また,知識を持っていることと,それを活かして実践していることとは別です。多くの方が行動変容できれば望ましいのですが,まずは“意識してみようか”という気になっていただく意識変容のハードルをクリアしたいものです。

3 適切な依頼先を検討する

産業医契約をしている組織であれば,産業医の先生が講師を担当することもあります。また,保健師等産業保健スタッフや人事担当者自らが実施するケースもあるでしょう。しかし,医師がメンタルヘルス研修の講師を担当するとき,医学的データや病態像についての話ばかりになってしまうことがあり,「面白くなかった」という受講者アンケートも見受けられます。もちろんお話のうまいドクターも多くいらっしゃいますので,依頼内容の打ち合わせが必要でしょう。また,メンタルヘルスの勉強をしている人事担当者も数多くいらっしゃいます。社内の方が講師を担当されるのであれば,内容の自由度はより高まるでしょう。しかし一方で,「社内の人間が偉そうに」と受け取られてしまうケースもあります。外部講師の活用では,外部であるから聴く耳を持ってくださる効果もあります。外部に依頼する際は,専門知識のみに偏ることなく,実践的な知識,すなわち具体的に何をすればよいかが分かるような内容が含まれていることが望ましいといえるでしょう。
例えば,「具合の悪そうな部下に受診を勧めるのは当たり前です。骨折や血が出ていればすぐに言葉が出てきますが,メンタルヘルス不調が疑われる場合は何と声をかけたらよいでしょうか?」と質問すると,口ごもってしまう方が多くいらっしゃいます。そういった目線から具体的に考え,話し合う時間を持てる研修内容が望まれます。

4 組織として利用できる資源を検討する

組織が管理職に望んでいる姿とは,早期発見・早期対処です。部下の変化に早めに気づき,早めに対応することです。「対応する」とは,話を聴き,必要に応じて専門家と連携することであり,治療行為ではありません。組織は病院ではなく,管理職は治療者ではありません。研修実施と併せ,組織として利用できる資源を社員の皆さんに案内することが望まれます。産業医契約があればそこが窓口となるでしょうし,外部の相談機関と契約していれば,その利用啓発に努めましょう。健康保険組合で相談電話の窓口を開設していることもありますので,ぜひご確認ください。また,人事・総務ご担当者が窓口となっているケースもあるかもしれません。その際は窓口となるご担当者が相談資源を持っておく必要があります。地域の産業保健推進センターや精神保健福祉センター等でも相談を受け付けています。

管理者自身のメンタル不調に注意

今回はメンタルヘルス研修,そのなかでもラインケア研修に絞って企画・実施のポイントをお伝えしました。管理職は部下の変化に対して早期発見・早期対処が求められています。そのために一番大事なこととして必ずお伝えしていることがあります。それは「管理者自身が健康であること,管理者自身がストレスマネジメントできていることが大切」ということです。管理職の方々がストレスフルだと,視野が狭くなり,“あいつ,最近調子悪そうだな”と感じにくくなります。これを心理的視野狭窄といいます。また,部下が相談に来た際,“なんだ,そんなつまらないことで時間取らせるなよ,こっちは忙しいんだよ”などと考えてしまい,正しい対応がとれないかもしれません。それでなくても管理職は部下よりもストレス要因は多く,ケアが必要なのです。研修では,そうしたメッセージを含めて,メンタルヘルス問題に対する感度を高めていただけるようにお伝えします。“余計な仕事が増える”ではなく,“メンタルヘルスの感度を高めることでより生産性が上がる”とお考えいただければと思います。

次回は一般従業員向けのセルフケア研修について考えてみます。管理職のメンタルヘルス感度が上がったとしても,部下自身が相談しない,または不調の素振りを見せなければ早期発見は難しくなります。ストレスマネジメントの方法についてもお伝えしますのでぜひお付き合いください。

大谷 裕(おおたにゆたか)
(株)保健同人社 EAPグループ・臨床心理士・シニア産業カウンセラー。大学卒業後,スポーツメーカーに10年間勤務。退職後,大学院で心理学を学び修士号を取得し,現職。EAPコンサルタントとして,企業の「人財」を活かすための支援に従事。研修開発・講師としても全国で活動中。

(月刊『人事マネジメント』2011年12月号より)

弊社EAPコンサルタントによるセミナー・研修についてはこちら

資料請求・お問い合せ Tel.03-3234-8005

保健同人社の上記サービスに関する資料請求・ご相談など、お気軽にお問い合せください。
※なお、当該サービスは企業・団体向けのサービスとなっております。

お問い合せ

保健同人社の上記サービスに関するご質問・ご相談など、お気軽にお問い合せください。
※フォームは30秒で入力できます。

ページのトップへ

関連サービス
  • EAP
    従業員のこころとからだの健康をトータルで支え、よりよい職場づくりをサポートします
  • MOSIMO
    メンタルヘルス不調者が長期休職したときの企業のコストを試算するこができるツールです

ページのトップへ