EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第3回:EAP体制構築の考え方

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『人事マネジメント』2012年2月号

第3回目は総合的にメンタルヘルス対策を進める視点から,EAP体制構築の基本的な考え方についてお話します。EAPとは,Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)の略称です。日本EAP協会では以下2点を援助するために作られた職場を基盤としたプログラムであるとしています。
①職場組織が生産性に関連する問題を提議する。
②社員であるクライアントが健康,結婚,家族,家計,アルコール,ドラッグ,法律,情緒,ストレス等と仕事上のパフォーマンスに影響を与えうる個人的問題を見つけ,解消する。

「福利厚生の一環」から「リスクマネジメント」へ

アメリカでは1940年代にアルコール依存症,薬物依存症が従業員に広がり,業績低下が問題となりました。その対策として,EAPは企業内のアルコール問題対策プログラムとしてスタートしたとされています。その後,社会環境の変化に伴い,EAPが扱う対象も精神障害,家族問題へと拡大していった経緯があります。また日本では,メンタルヘルス不調者の増加に伴い,2000年前後に社内のメンタルヘルス問題に取り組む企業が増えはじめました。その背景には大手企業従業員の遺族が起こした訴訟の最高裁判決等があります。長時間労働とうつ病,自殺の因果関係が認められ,1億円を超える和解金額が当時大きな話題となりました。その後,厚生労働省が企業のメンタルヘルス対策についての指針を示し,企業のメンタルヘルス問題がより注目されはじめたのはご存知の通りです。そうした経緯から,日本ではEAPといえばメンタルヘルス対策を指すと考えられ,EAPサービスを提供する事業者は心理専門職が担当窓口となることが多いという現状があります。
数年前,弊社がメンタルヘルス研修のご依頼を多く受けるようになった頃は,「福利厚生の一環」という意味合いが強く,「リスクマネジメント」の発想で,とお話してもあまりピンと来ていただけない印象がありました。現在は労災,訴訟,生産性低下といったリスクの話題が増え,リスクマネジメントからの発想が認識されてきたように思います。
確かにメンタルヘルス不調者の増加が深刻化し,会社としては看過できない状況にあります。私たちも,従業員の方々に知識と対応能力を学んでもらいたいという意向からメンタルヘルス研修を実施,または休職された方に対しては復職支援,セーフティネットのための電話相談窓口設置等々のご依頼を数多くいただいています。しかしながら,それらは問題への対症療法に過ぎません。

不調者対応に追われています!

C社は1,000人以上の規模で全国複数に拠点を持つ流通業です。メンタルヘルス不調で休職している従業員が相当数,そして,潜在的な不調者予備軍はもっといる様子でした。社内資源についてうかがってみると,電話相談の窓口は既にお持ちで,各拠点では産業保健スタッフとして保健師を常勤で雇用し,日々忙しく対応されているとのことでした。お話をうかがうと,社内資源としては恵まれているようにも見えましたが,不調者は一向に減らないし,産業保健スタッフも疲弊しているようです。それほど就業環境が悪いのかと,もう少し突っ込んでお話をうかがってみると,他の問題点が見えてきました。
比喩が適切ではないかもしれませんが,火事が起きたら火を消さなければいけません。その際は全力で消火に努めることでしょう。しかし何度も出火が続くようなら,火事の原因を突き止め,防火対策を練る必要があります。メンタルヘルス対策でも,これと同じことがいえるのです。

初期消火が第一,その次は防火対策が必要

C社では各拠点の産業保健スタッフがそれぞれ地域の医療機関や相談機関等と連携し,対処していました。大変なご苦労と試行錯誤の繰り返しだと思います。しかし,拠点間連携が不十分で,ある拠点で初めて起こった事例が実は別の拠点では対処済みだった,ということが複数あることが分かりました。連携やノウハウの蓄積という点にまで気が回らないほど,現場対応に追われている,ということかもしれません。そこで,拠点同士の産業保健スタッフが定期的に集まり,ケースカンファレンスができるよう,体制作りをご提案しました。また,ネットワーク上にアクセス制限があるフォルダを作り,応対ケースを蓄積,閲覧できるよう,システム構築もおすすめしました。こうしたノウハウの蓄積と共有が対処の効率化につながります。しかし,これだけでは現状業務の効率化に過ぎません。
現場では不調者ケアが続いています。併行して,職場で何が起こっているのかを分析し,改善していく必要があります。管理職の初期対応に問題があるのか,それとも就業環境に改善の余地があるのか,優先順位をどうやって決めていくのか,誰が担当するのか,等々です。C社では各拠点の産業保健スタッフがヒアリング調査をすることからはじめ,同時に管理職に対してラインケア研修の実施を企画しました。次年度からは全社員を対象にストレスチェックを実施し,さらに現状分析を一歩進める計画を立てました。

他の業務と同様にPDCAサイクルを回す

C社のメンタルヘルス体制はまだPDCAでいえば,計画(Plan)の段階です。様々な現状分析結果から仮説を立て改善計画を立案し,実施(Do),評価(Check),改善(Act)のサイクルを意識しながら進めていく必要があります。EAPコンサルタントも,中長期的な視野でメンタルヘルス体制を構築,運用していけるよう,お手伝いしています。

これからのEAPは社員の能力発揮を支援していく

先の話の通り,日本のEAPはメンタルヘルス対策からスタートしたという経緯をご説明しました。しかし,本来は「従業員支援プログラム」ですから,メンタルヘルス対策だけではないということもお分かりいただけると思います。EAPはもっと広い範囲で支援をしていく段階にあります。例えば健康という切り口から考えてみると,当然ですがメンタルだけでなく,身体面でのサポートも生産性向上に直結します。そこには食習慣や運動,睡眠状況の見直しも含まれるでしょう。これまでは福利厚生,健康保険組合の領域だったかもしれませんが,今後はマネジメントの課題として関与していく必要が出てくると思われます。さらに,体調不良ではないけれども,潜在能力が十分発揮できていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。人材開発,能力開発の分野でも心理学の知見は活用できると考えています。私たちはこうした考えに基づき,「働く人が最も能力を発揮しやすい状態」をプロデュースする従業員支援プログラムの準備を進めています(ご興味を持っていただける方は保健同人社のHPよりご確認ください)。
C社との取り組みはまだ始まったばかり。状況改善は場合によっては従前のフローとは違う流れに変えていくことにもなり,様々な問題が発生してくることもありえます。関係部署と協調しつつ,“人財”を生かすお手伝いができればと考えております。

次回は企業で突然起こってしまった不慮の事故等の対応,惨事ストレスマネジメントについてお話します。

大谷 裕(おおたにゆたか)
(株)保健同人社 EAPグループ・臨床心理士・シニア産業カウンセラー。大学卒業後,スポーツメーカーに10年間勤務。退職後,大学院で心理学を学び修士号を取得し,現職。EAPコンサルタントとして,企業の「人財」を活かすための支援に従事。研修開発・講師としても全国で活動中。

(月刊『人事マネジメント』2012年2月号より)

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