EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第4回:惨事ストレスケアの重要性を認識しよう

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『人事マネジメント』2012年3月号

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から1年が経とうとしています。復興に向けた事業,支援が様々行われ,報道されていますが,まだ道半ばというところだと思います。私たちは震災後,メンタルヘルスケアのご依頼をいただき,東北各地を中心に様々な企業様へお邪魔しています。そこで,第4回目は企業で突然起こってしまった不慮の事故等への対応として,惨事ストレスケアについてお話します。
「惨事ストレス」とは次のようなことを指します。

1)職場内において

  • 死亡事故に直接関わった,または目撃した
  • 死を連想させるような重篤な事故に直接関わった,または目撃した,かつ混乱や動揺などが見られる
  • 同僚や従業員が事故,自殺などで亡くなった

2)自然災害による被害に遭った

  • 地震,洪水や水害,噴火,津波,台風など

3)人為的災害による被害に遭った

  • 交通事故,火災,ビルの倒壊,強盗など

私たちは,日常的に経験する範囲を越えた,急激かつ衝撃的な出来事を経験したり,見聞きしたりすると,心身に様々な影響が出ることがあります。それは抱えきれないような出来事を乗り越えようとする自然で正常な反応です。同じ出来事でも,人によって感じ方や反応の出方は異なります。また,反応がないのも正常なことです。心身の反応とは,不安,緊張,怒り,イライラなどの「精神的な反応」,眠れない,食欲が落ちる,頭痛がするなどの「身体的な反応」,酒やたばこの量が増える,事件・事故を思い出させる場所や人を避けるなどの「行動上の反応」があります。反応が出ることは正常ですが,それが長く続いて日常生活に支障を来すようなら,受診等のケアが必要です。

工場で事故が起き犠牲者が出ました

D社では,ある工場で誤った機械操作から作業員が機械に巻き込まれ亡くなるという事故が起こりました。一緒に作業していた方が資材を取りにその場を離れたときだったそうです。その方だけでなく,管理職,職場の同僚,同期,懇意にしていた他の従業員たちは大きなショックを受けました。当社EAPグループで惨事ストレスケアのご依頼をいただき,ヒアリングと打ち合わせを経て2週間後に現地工場へうかがいました。
惨事ストレスケアの対象者は,①管理職,②管理職が心配だと判断される方,③希望者とし,十数 名となりました。最初に全員に対して惨事ストレス反応についての基本的知識をご説明し,出来事に対しての影響度を測る質問紙に回答いただきました。この質問紙の結果も参考にしながら,個別面談を通してEAPカウンセラーが心配だと判断した方については医療機関,相談窓口をおすすめし,ご本人の同意を得たうえで,担当者様に報告しました。
「特に話すことはない」という方には強要せずに終了しますが,話をはじめると堰を切ったように感情があふれ出す方もいらっしゃいます。誰かに口止めされていたわけでもなく,その話題を避けて胸の内に押し殺し続けていたそうです。カウンセラーに話をしたからといって状況は変わりませんが,それでも思いを吐き出すことで多少なりともすっきりできたとおっしゃって退室されました。
またある方は,被害に遭った人とは仲が良く,残念に思うのだが,なぜか感情が動かない。動揺しない自分は冷たく,異常なのではないかと話されました。「悲しみの表現は人それぞれで異常なことではない。今は感情を表に出したくないのかもしれない。今回のことについて誰かと話がしたくなったときを待ってみましょう」とお話すると,少し安心したご様子でし た。
管理職の方はご自身のことよりも部下の体調を心配されていました。部下とのコミュニケーションを意識して増やすことはおすすめしましたが,ご自身も気が張っている状態であることを自覚し,体調変化に気をつけていただきたいとお伝えしました。
D社の惨事ストレスケアでは,念のため医療機関の連絡先をお渡しした方が若干名いらした他は,深刻なストレス症状の出ている方はいませんでした。通常,惨事ストレスケアでは,1ヵ月後くらいを目処にもう一度面談を実施しています。それは,ストレス反応が遅延して起こることがあるからです。

ストレスケアの実施が組織の問題を改善する機会に

惨事ストレスケアは惨事という大きなストレッサーに対し,心身の調子を崩さないように実施するケアですが,私たち外部EAPのカウンセラーが様々なお話をうかがうなかで,別の課題が見えてくることが多々あります。その多くは人事担当者には言いにくい現場の状況や組織の問題です。例えば,「惨事ストレスケアの実施当日になって初めてストレスケアが実施されることを知った」という従業員の方もいました。人事担当者は事前に現場の管理者と打ち合わせていたわけですから,そこから先の連絡が不十分だったことになります。連絡内容によっては管理者任せではなく,全社に向けた発信が重要な意味を持つケースがあります。
ある会社では,震災数日後,社長名で全社員へメッセージを発信しました。「何もできないとしても,行くことに意味があるのではないか」と。すぐに物資を持参して被災地を訪問する動きが社内にわきおこったそうです。一方ある会社では,「明日のセールは既に広告を出してしまったから,散乱した売り場を片付けて帰れ」と上司から命じられ,片付けが深夜に 及んだと語る従業員もいました。緊急時に会社はどう対応するか,従業員は見ています。惨事を経て,皆で頑張っていこうと士気を高められる会社とそうでない会社の分岐点が浮かび上がってきます。
こうした課題はできるだけ人事担当者様へのご報告の際,お知らせするようにします。もちろん個々人の面談時では同意を取り,内容によって個人が特定されるような報告はしません。同意をいただいた範囲で個人名は出さずに,組織の課題をご提示し,併せて対策案もご提案しています。

BCPの課題に「心のケア」も忘れずに

震災を機に,BCP(BusinessContinuity Plan/事業継続計画)という言葉を以前より耳にするようになりました。BCPとは,企業が自然災害,大火災,テロ攻撃などの緊急事態に遭遇したとき,事業資産の損害を最小限にとどめ,中核となる事業の継続または早期復旧を可能にするため,平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続の手段などを取り決めておく計画のことです。従業員の心身の健康を保つことも事業継続にとって不可欠の要素と考えます。今一度,BCPの課題としてご検討されることをおすすめします。
最後に,震災に限りませんが,「記念日反応」という言葉をご存知でしょうか。3月11日前後に,おそらく当時の報道が繰り返され,辛い気持ちがぶり返してしまう方がいらっしゃるかもしれません。その際は,「反応自体は異常ではない」と覚えておいてください。「反応が出ることがあると聞いたが,これか」とお考えいただきたいと思います。そして心身の不調を感じたら,早めにご相談されることをおすすめします。第三者に話をするだけでも気分は変わってきます。

次回は数年前から話題になっている「新型うつ」についてお話します。ご期待ください。

大谷 裕(おおたにゆたか)
(株)保健同人社 EAPグループ・臨床心理士・シニア産業カウンセラー。大学卒業後,スポーツメーカーに10年間勤務。退職後,大学院で心理学を学び修士号を取得し,現職。EAPコンサルタントとして,企業の「人財」を活かすための支援に従事。研修開発・講師としても全国で活動中。

(月刊『人事マネジメント』2012年3月号より)

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保健同人社の惨事ストレスケア

職場で、突発的な出来事や危機的な状況が発生した際に、カウンセラーがその出来事に関係した従業員の方への心理的なサポートを行います。

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