EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第5回:新型うつ病とイマドキの若者

他の記事を見る

『人事マネジメント』2012年4月号

ここ数年,私たちEAPコンサルタントが研修講師として企業へお邪魔したときや人事担当者とのお話のなかで,「新型うつ病」と,若い世代の従業員に関するご相談を受ける機会が増えています。「最近の新人はとても素直だけど自ら動かない」「自分の意見を言わないので何を考えているのか分からない」といった声も聴きます。“いつの時代も,「近頃の若者は何を考えているか分からない」のでは?”と思いつつ,それでは済まない状況が起きているようです。

休職中にテニス合宿―「彼は本当に病気なのか?」

ある会社の管理職からのご相談です。入社2年目の部下がメンタル不調で休職中とのことでした。
業務の負荷が高いわけでもなく,むしろ簡単な仕事も満足にこなせないレベルだったそうです。そしてある日,管理職は彼の仕事のミスを叱責しました。これまでに何度も注意してきたミスだったので,少し厳しい指導になったそうです。それだけが原因ではないかもしれませんが,その部下は翌日から体調不良で欠勤し,翌週,「抑うつ状態につき,2ヵ月の休養を要する」という診断書を持ってきました。管理職は呆気に取られましたが,診断書が出たのだから病気だろうと休職扱いにしました。
ところがその後,休職中なのに繁華街で酔って騒いでいる姿を同僚が見かけたり,テニス合宿に参加したりしているという噂が届きました。職場は人員が豊富に揃っているわけではないので,1人休めばその分の負荷は当然残りのメンバーらにかかっています。そうした状況なので,“彼は本当に病気なのか? 怠けてさぼっているだけではないか?”と思ってしまう,とのことでした。

会社にいるときだけうつになる症状

「新型うつ病」について少しご説明しましょう。新型うつ病は現代型うつ病,擬態うつ病,ディスチミア親和型など色々な呼ばれ方があります。まず理解していただきたいのは,これらは診断名ではなく「俗称」だということです。精神科医の間で,「これまで治療してきたうつ病とは違うタイプが増えてきたようだ」という認識のもと,区別するために俗称をつけたそうです。まだうつ病に分類してよいかどうかも定かではなく,これまでの治療法が当てはまるとも限りません。従来言われてきたうつ病では真面目な人が業務過多で疲弊するのに対し,新型うつ病では業務過多ではない若手が些細なことで体調不良を訴えて休んでしまう,という違いがあります。会社にいるときだけうつになるといった症状でしょうか。病気の詳細は参考書(『擬態うつ病/新型うつ病-実例からみる対応法』林公一・著/保健同人社)に譲るとして,職場では困っている人が増えている,ということは事実のようです。

怠けているか否かではなく働けるかどうかで判断

以前の回で「会社は病院ではなく,管理職は治療者ではない」とお話しました。問題は病気か否かというより,「労務を提供できるか否か」です。つまり,労務管理という視点での対応が適切です。診断と治療は医師に任せ,企業は業務ができるかどうかで判断するのです。うつ病であることすら疑わしいとしても,診断書が出てきたら就業規則に則り決められた期間は休職してもらい,その後,業務ができる体調ならば復職してもらい,そうでなければ引き続き治療に専念してもらう,という対応方法は他の疾患と同じです。
ただし,業務ができないほど体調が悪くて休んでいるわけですから,酒を飲んで騒いだり,遊んでいるように見えたりするのは問題です。業務をフォローしている他の従業員の心情にも配慮が求められます。「休職期間中は療養に専念する」という規定を作り,それに則って指導する必要があるでしょう。「自分に都合の良いことばかり言って腹が立つ」という気持ちはもっともですが,感情に任せて怒鳴りつけるような指導をすると,「パワハラが原因で抑うつ状態になった」と主張される可能性もありますので要注意です。

「社会人基礎力」と社会人のあり方を考える

問題を「イマドキの若者はしょうがない」と括ったところで意味はなく,解決もしません。私自身,新人時代に上司から「だからバブル世代は」などと言われて不快に感じたことがあります。「バブル世代」「ゆとり君」というように,一括りにするのは楽ですが,心理学的には危険があります。若手のなかにも優秀な方はたくさんいるし,その方々のモチベーションを 下げてしまう結果になります。さらに上の世代でも,新人時代には一括りにされ,個人が誤解されるようなことはあったと思われます。
いずれにしろ,問題事例が増えたというならば対策は必要であり,それは「労務管理を視野に入れた個別対応」,そして新人世代を対象とした「人材教育」だと考えられます。
経済産業省は2006年2月,社会が求める「学んだ知識を実践に活用するために必要な力」を『社会人基礎力』と名付け,「社会人基礎力に関する研究会」において,社会人基礎力の内容を3つの能力と12の能力要素に整理しました(図表)。ご覧いただければ分かるように,「若い世代」に限って必要な能力ではなく,社会人全員が身につけたい能力です。皆様は「私には社会人基礎力が備わっている」と自信を持って言い切れるでしょうか? 特に最近は「若い世代」に対して批判的な風潮があるように思いますが,先輩世代だって偉そうにしていられないと思われるシーンは多々あります。

図表 「社会人基礎力」の3つの能力/12の能力要素

例えば,電車内で電話をしているのは若い世代に限りません。着信音を高らかに鳴らしているのも先輩世代だったりします。電車は降りる人が先というのがマナーですが,空席に座るために強引に乗車してくる先輩世代を見かけると残念に思います。先日車内で,中学生が大またを開いて座席に陣取り,スポーツ新聞を読みながら缶コーヒーを飲んでいました。そし て,駅に到着すると,スポーツ新聞を網棚に放り投げて下車していきました。いったい誰を見て学んだ仕草なのでしょうか。
これを職場に置き換えてみましょう。「若い世代」は昇進にこだわっていない,むしろ昇進を嫌がる人が多い,という調査結果があるそうです。昇給の割に責任が大きいなど理由はたくさんあると思いますが,先輩世代が辛そうに仕事をしているからではないかとも考えられます。先輩や上司が辛そうにしていれば,後輩はそうはなりたくないと思うのが自然でしょ う。社会人教育以前に,先輩世代が活き活きとモチベーション高く仕事をする姿を見せることも後輩にとっては良い刺激になります。ぜひご自身の姿勢についても振り返ってみてはいかがでしょう。

次回は復職支援についてお話します。ご期待ください。

大谷 裕(おおたにゆたか)
(株)保健同人社 EAPグループ・臨床心理士・シニア産業カウンセラー。大学卒業後,スポーツメーカーに10年間勤務。退職後,大学院で心理学を学び修士号を取得し,現職。EAPコンサルタントとして,企業の「人財」を活かすための支援に従事。研修開発・講師としても全国で活動中。

(月刊『人事マネジメント』2012年4月号より)

弊社EAPコンサルタントによるセミナー・研修についてはこちら

保健同人社のメンタルヘルス研修

専門職スタッフが、エビデンスに基づいた多彩なプログラムをご提供します!
新入社員・若手社員向けメンタルヘルス研修、「社会人基礎力」研修も行っていますので、ぜひご利用ください。

メンタルヘルス研修の詳細はこちら

資料請求・お問い合せ Tel.03-3234-8005

保健同人社の上記サービスに関する資料請求・ご相談など、お気軽にお問い合せください。
※なお、当該サービスは企業・団体向けのサービスとなっております。

お問い合せ

保健同人社の上記サービスに関するご質問・ご相談など、お気軽にお問い合せください。
※フォームは30秒で入力できます。

ページのトップへ

関連サービス
  • EAP
    従業員のこころとからだの健康をトータルで支え、よりよい職場づくりをサポートします
  • MOSIMO
    メンタルヘルス不調者が長期休職したときの企業のコストを試算するこができるツールです

ページのトップへ