EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第7回:ハラスメント問題にどう対応するか

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事例1 「『セクハラだ』と騒ぎたくはないが…」

『人事マネジメント』2012年6月号

「以前一緒に仕事をしていた先輩と顔を合わせるのも嫌で仕方がありません。いろいろ言い寄ってきたり,触られたりします。これくらいのことでセクハラだと言うのもおかしい気もするし,『それくらいのことで騒ぐなんて』と,かえってバカにされるんじゃないかとも思います。からかわれているだけなのかもしれませんが,どうしたらいいでしょう?」―20代の女性からのご相談です。
皆様だったらどのように対応しますか。「個人的な恋愛のことは当人同士で話し合ってください」または「先輩はあなたのことが好きなんでしょう。嫌なら断ればいいじゃないですか」と返すのは,人事担当者としてはNGでしょう。セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)とは,「相手方の意に反する性的な言動によって不利益を与えたり,労働環境を悪化させること」と定義されます。1999年に男女雇用機会均等法が,事業主の配慮義務としてセクハラ禁止を法制化しました。当時は男性=加害,女性=被害の文脈で語られていましたが,2007年に一部法改正され,男性に対するセクハラも対象とされました。
事例1は,定義に従えば相談者の意に反しているようですから,これはセクハラに該当するのでしょうか。人事担当者として,「私がその先輩に注意しておきます」と言いますか? 実はそれもNGです。事実かどうかは相談者からの訴えだけでは判断できないからです。また,事実関係の確認もなく,いきなり人事担当者から注意を受けた先輩はどう思うでしょう。人事に余計なこと言ってくれたな」と,相談者がさらに二次被害に遭う可能性が出てきます。

事例2 「叩き上げの所長が理不尽に厳しい…」

「所長が厳しすぎて辛いです。ご自身はこの会社では叩き上げだそうで,意見が少しでも違うと大した理由もなく頭ごなしに否定されるし,無視どころか目も合わせてくれず,必要な会議のメンバーからも外されてしまいます。また,指示通りにしただけなのにミスが起こると私のせいにします。所長は部長はじめ上職の方々にかわいがられている存在なので,上の人にも滅多なことは言えません。どうしたらいいでしょう?」―30代男性からのご相談です。
ここまで分かりやすい事例であれば,事実関係を確認のうえ,指導,場合によっては懲戒,となるでしょうか。しかし,この所長がかなりのハイパフォーマーで,1人で大きな利益を上げている存在だとしたらどうでしょうか。
パワー・ハラスメント(パワハラ)の問題は昨今大きく注目されています。厚生労働省は2011年,学識者による「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を立ち上げ,2012年3 月には問題解決に向けた提言・取り組みについて発表がありました。「パワハラ」は日本で作られた造語です。その定義は,「同じ職場で働く者に対し,職務上の地位や人間関係など の職場内の優位性を背景に,業務上の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える,または職場環境を悪化させる行為のこと」とされます。昔の職場では許されたことが,今は問題になるケースもあります。よく言えば体育会系の職場で育った管理職が,自分の体験と同じ荒っぽいやり方で部下指導すると,うまくいかないだけでなく,ハラスメントの問題に発展するリスクもあるわけです。

ハラスメントに有効な中長期の対策とは?

組織がハラスメント問題に対して対策を講じる際,どのようなことが考えられるでしょうか。まずは「窓口設置」や「教育研修の実施」と考えることが多いようですが,残念ながらそれだけで問題解決とはいきません。一時的に意識は高まるかもしれませんが,すぐに忘れられてしまいます。ご検討いただきたいのは,(1)継続的な意識啓発,(2)しっかりした体制 整備,の2点です。

(1)継続的な意識啓発

意識啓発では,ハラスメントがどういうものなのかを社内に周知する必要があります。教育研修や啓発用パンフの配布などの方法が考えられます。ただし,言葉で説明するだけではすぐに忘れられてしまうでしょう。教育研修をするなら,具体ケースや事例検討などを用いて,意識に定着させる工夫が必要です(メンタルヘルス対策・研修と同様)。
A社では,部長に対してハラスメント研修を企画しました。受講者である各部長には,研修後レポートを作成いただくこと,後日部下に対して自らが講師となってハラスメント研修を実施していただくこと,の2点を事前にお知らせしました。自分が講師を務めるということで,必然的に受講動機が高まりました。
B社では管理者研修のプログラムにハラスメントの内容を追加しました。同時に全従業員にハラスメントの啓発用パンフレットを配布,研修の受講内容を告知しました。これにより,「上司はハラスメント研修を受講した」と部下から認識されることになります。研修とパンフレットを合わせて使うことで,管理者の受講動機を高めようとしているわけです。B社で は来期から全従業員に順次ハラスメント研修を実施する計画を進めています。これら以外にも施策は考えられます。

(2)しっかりした体制整備

ハラスメント問題に対する意識が高まると,窓口への相談が増加します。これはハラスメントが増えたのではなく,問題が顕在化したと考えられ,啓発の効果が表れ始めたと評価できます。しかし,研修を受け意識は高まったが,「相談窓口がない」「担当者が誰だか分からない」「相談したらどうなるかが明確でない」または「信用できない」となると,「外部機 関へ相談しよう」となり,訴訟リスクが高まる可能性があります。意識啓発を考えるときは,同時に相談窓口担当者と相談フローを決めて周知する必要があります。
また,担当者は男女いることが望ましいといえます。セクハラ被害者が女性だった場合,担当者が女性のほうが話しやすいと考えられるからです。そして,担当者はハラスメントに関する知識を有し守秘義務を課せられるのはもちろん,安心して話を聴くことができ,記録の作成ができるなど,一定のスキル習得が必要となります。

事実を確認したうえで,必要・適切な処分を

先の両事例の対応としては,①窓口機能の説明,②事実確認のため,いつ,どのような言動があったのかを具体的に聴く,③問題解決に向け,相談者の要望を聴く,④必要に応じて先輩や周囲の人からも話を聴き,事実確認することの了解を取る,⑤事実関係確認のうえ,組織としてどのような対処をするかを決定し,伝える,等が考えられます。
事例2の上司がハイパフォーマーだった場合は,企業業績に直接影響する事情もあってルール通りの処分が難しいかもしれません。しかし,利益を上げていても,ハラスメント行為が認められるなら,長期的にはマイナス要素(人材育成の阻害や訴訟リスク)が大きいといえ,指導・懲戒が妥当です。部下を持たないポジションにする,または「部下指導」という人事考課項目を重視して評価を下げる,という企業もあります。
ハラスメント対策はトップダウンで施策を進めると効果が高いといわれます。ハラスメントの問題が起こるのは組織の歴史や社風と関係があり,改善には大きなパワーが必要だからです。

次回は生産性向上のための健康管理についてお話します。

大谷 裕(おおたにゆたか)
(株)保健同人社 EAPグループ・臨床心理士・シニア産業カウンセラー。大学卒業後,スポーツメーカーに10年間勤務。退職後,大学院で心理学を学び修士号を取得し,現職。EAPコンサルタントとして,企業の「人財」を活かすための支援に従事。研修開発・講師としても全国で活動中。

(月刊『人事マネジメント』2012年6月号より)

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