EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第8回:熱中症リスクマネジメント

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『人事マネジメント』2012年7月号

7月には各地で梅雨が明けて,全国的に暑い夏がやってきます。梅雨明け時期の従業員の健康問題といえば,熱中症。EAPというと,メンタルというイメージが先行しがちですが,身体の健康リスク管理も,人事に対応が求められるテーマです。梅雨明け直後の急激な温度上昇に伴い熱中症の発生が激増するので注意が必要です。

室内作業・外回り移動中でも熱中症のリスクは高い

職場における熱中症は屋外での作業で多く発生し,過去3年間で建設業が約4割,次いで製造業が2割を占めています。過去10年間(平成13年~22年)の死亡者の合計は210名に上り,休業4日以上の業務上疾病者数も平成19年の1年間で299件発生するなど,熱中症を防ぐことが夏の安全配慮の重要課題になってきています。また,平成22年度の職場における熱中症による死亡者数は,毎年の2倍以上にあたる47名となりました。
熱中症は,高温多湿,汗が蒸発しにくい,体温調整が難しい場合に起こりやすくなります。特に,節電などで空調機能が不十分な状況では,屋外作業のみならず,室内作業や通勤時,営業の外回り中などでも注意が必要です。

熱中症のリスクを下げる疾病管理が鍵

熱中症の予防といえば,「暑さを避ける」と「水分摂取」を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし,職場における熱中症予防の留意事項では,健康管理も重要です。特に,糖尿病(多尿などの症状により脱水症状を起こしやすい),高血圧(服薬の種類により脱水状態になりやすい),腎不全(塩分摂取制限により塩分不足になりやすい),抗うつ薬・睡眠薬の服薬(発汗および体温調節が阻害されやすい),皮下脂肪が厚いといった従業員の作業時には注意が必要です。実際に,平成22年度の職場における熱中症で死亡した47名のうち17人は,糖尿病等の熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾病を有していました。熱中症予防の観点では,これらの疾病を定期健康診断により把握しておくことが鍵となります。

熱中症の正しい知識と水分摂取の啓蒙を社内に

健康管理が重要とはいえ,やはり,水分摂取は大事です。平成22年度に職場における熱中症で死亡した47名のうち39人は,自覚症状の有無に関わらない定期的な水分・塩分の摂取を行っていませんでした。
人間の身体は60~70%が水分です。1日に尿と便で約1.3リットル,汗で1.2リットルが失われるため,1.5リットル(コップ8 杯)程度の水分と朝昼夕の食事から摂る水分が欠かせません。さらに,暑い日は発汗に見合う量を追加して補給することが不可欠です。のどの渇きという脱水のサインが出るのは,体重の約2%(体重65kgなら,1.3リットルに相当)もの 水分が失われてからになるので,自覚症状の有無に関わらず定期的な水分と塩分補給を習慣づけるよう,職場への啓蒙が必要です。
また,水分補給では,その質に注目することがより効率的な熱中症予防につながります。市販の缶コーヒー(砂糖・ミルク入り)には,スティックシュガー6本程度の砂糖が入っているのをご存知でしょうか。水分の補給を甘い飲料に頼ると,肥満や糖尿病などの病気を招くだけでなく,熱中症のリスクを上げてしまう可能性もあります。砂糖入りの飲料を日常的に 飲むのは避け,水や糖分の含まれていないお茶類で水分補給をするよう社員の皆さんにおすすめください。特に,水分補給の習慣のない通勤時や外回り中にも,意識的な水分補給を心がけるよう注意喚起しましょう。
なお,平成21年6月19日付『職場における熱中症予防について』(厚生労働省)によると,WBGT値(暑さ指数)が基準値を越える場合は,0.1~0.2%の食塩水またはナトリウム40~80mg/100ミリリットルのスポーツドリンクまたは経口補助液等を20~30分ごとにカップ1~2杯程度を摂取することが望ましいとされています。市販のスポーツドリンクには適量のナ トリウムとともに,飲みやすいよう500ミリリットルあたりスティックシュガー11本程度の砂糖が含まれているものもあるので,成分のチェックもおすすめします。

生活習慣の見直しを含め体調管理から予防する

図表 1食の献立例による水分量の試算

睡眠不足,体調不良,前日の飲酒,朝食の未摂取,感冒による発熱,下痢による脱水などは,熱中症の発症に影響を与える恐れがあるので管理者による把握が必要な留意事項です。実際に,平成22年度の職場における熱中症による47名の死亡者のうち4人は,体調不良,食事の未摂取または,前日の飲酒がありました。
なぜ,朝食の未摂取が熱中症のリスクとなるのでしょうか。食事から摂れる水分量は1日に約1リットルで,調味による塩分も含まれているのが利点です。人間は寝ている間も発汗し,起床時はすでに脱水状態なので,水分補給として朝食をとることが有効です(図表)。しかし,平成21年の国民栄養調査で,20代,30代の男性の朝食欠食率が21%,40代で14%とい う結果が出ました。働き盛り世代のおよそ6人に1人は朝食未摂取という現状です。夏は食欲が落ち,朝食をとらなくなる人が増加するので,職場で食事を準備したり,熱中症予防の教育として朝食の必要性を訴えることが現実問題として必要となっています。
さらに,前日の飲酒が熱中症のリスクとなるのはなぜでしょうか。実際に,厚生労働省の熱中症予防対策マニュアルに下記のような発症事例がありました。

区切り線

■20代男性 7月中旬に発生
午前10時前から炎天下で高負荷の作業に従事。午前11時半頃に気分不良とふらつきが出現し,医療機関を受診。休憩はなかったがスポーツドリンクを合計3杯飲んだ。体調不良はなかったが,前日夜に飲酒があり,朝食をとっていなかった。

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この事例では,作業前に簡単な健康状況の確認をしたものの,朝食の未摂取と前夜の飲酒まで把握できなかったため熱中症のリスクが上がったと考えられます。アルコールも水分のように考えがちですが,熱中症の観点では異なります。アルコールは分解時に水分を大量に使うことに加え,水分を排泄する作用があるのです。飲酒時にトイレに行く回数が増えたり,翌朝のどが渇いたりした経験がある方も多いのではないでしょうか。アルコールは,翌日の仕事の状況を考慮し飲みすぎないこと と,脱水を抑えるために水を一緒にとりながら楽しむようにしていただきたいと思います。仕事のあとの1杯のビールのために,のどの渇きを我慢するのは,もってのほか,ということになります。
この夏は節電により,室内や通勤中,外回りのときに,体温を下げられる涼しい場所がないことで,熱中症のリスクが上がると予想されています。健康リスク管理としての熱中症予防では,定期健康診断での疾病把握とその管理が鍵となります。さらに,質を考えた水分の摂取や,日頃からの健康管理を踏まえた,当日の状況把握が必要です。健康管理について,疑問や不安があるときは,健康相談を活用していただくのも一つの方法です。

渡邊 玲子(わたなべれいこ)
管理栄養士,認定心理士。公衆衛生に関わる調査・研究の他,栄養指導,地域・薬局・企業での栄養教室や健康づくりセミナー等の企画・運営を経験。(株)保健同人社では,健康相談や健康研修講師として,身体を作る運動や,大人の食育などの楽しく・美味しく・自分に合った食の選択術を全国で伝えている。

(月刊『人事マネジメント』2012年7月号より)

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