EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第11回:人事担当者自身にもケアが必要

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『人事マネジメント』2012年10月号

支援者自身がストレスにさらされる

「災害支援などの現場で,被災者の人命救助や心のケアにあたるプロ支援者の世界では,“ C a r e -givers Care(ケア・ギバーズ ケア)という考え方が任務遂行上,とても重要視されています。「ケア・ギバーズ」とは,支援を提供する人たち,つまり支援者を意味しますので,「ケア・ギバーズケア」は「支援者の支援」ということです。訓練を積んだ支援者であっても生身の人間です。その人なりの限界があります。厳しい任務や高度のストレス環境にさらされ続けると個人のストレス耐性の限界を超え,バーンアウトする(燃え尽き状態になる)危険が高まります。そうした状態を予防するための対策が「ケア・ギバーズケア」です。東日本大震災では今も復興に向けた努力が続けられていますが,災害後,救助に当たった消防署員,警察官,自衛隊員の方々のケアが必要だとの報道を目にされた方もいらっしゃるでしょう。また,避難所になった学校では,教職員の皆さんが自らも被災者であるにもかかわらず,他の避難者支援を優先し,疲れ果てて体調を崩してしまったという話もお聞きします。支援者が支援を優先しすぎて体調を崩すというケースは意外に多いものです。

管理監督者の負担に注意

純粋な支援者ではありませんが,企業では災害発生時,現場で指揮を執る管理監督者には支援者的な立場が求められます。被災時はメンバーの安否確認,社内の関連部署と連携しながら事業を継続させるための計画を策定し,指示する必要があるでしょう。そして,被災のショックから起こる部下の体調不良への配慮に至るまで,現場では様々な対応が求められます。また,消防や警察,労基署等とのやり取りも考えられます。
このように,緊急事態では,過剰な緊張状態が長く続くことになります。私たちEAPコンサルタントが惨事ストレスケアを実施するとき,管理監督者の方々が過剰な緊張状態であると思われることが数多くあり,面談でお話をじっくりうかがうとともに意識的な休息の大切さをお伝えし,注意を促しています。

カウンセラー自身もケア

臨床心理士や,心理専門職はプロ支援者になるべく訓練を受けていますので,支援の場面ではその心理学的知識を活用して面接等の援助に当たります。しかし,当然先の事例と同じく過剰な緊張状態が長く続けば疲弊します。そうしたとき,私たちは面接終了後,リラックスを心がけ,カウンセラー同士でケースについて共有する時間を意図的に設定します。また,1 日の面接回数,1 回当たりの面接時間の上限を設定し,消耗しすぎないよう配慮します。それでも疲れてしまったときは先輩カウンセラーから指導を受けたりしてケアに努めています。

人事担当者ご自身こそストレス軽減が必要では?

災害現場ほど深刻ではないにしても,人々の思いが複雑に混ざり合う職場課題に対応し続ける人事担当者もまた,従業員を支援し続ける「ケア・ギバーズ」と考えると,ストレス軽減対策を必要とする対象者の筆頭に挙げておくべきではないかと思います。

何でも1 人で抱え込むAさん

「人事は間接部門なので増員は難しいんですよね……」ある企業の人事担当者A さんがつぶやきました。Aさんの関わる業務は採用にとどまらず多岐にわたります。昨今のメンタル不調者の増加もあり,この企業でも休・復職に関するトラブル,ハラスメント問題,社内体制・規定の整備,労働組合対応,給与待遇等々,頭を悩ませることばかり。社内の「よろずもめごと引き受け係」のような役割を求められていたAさんは,疲れが溜まっているご様子でした。
大企業であれば担当業務は細分化されていて,そこまで様々な業務が1 人に集中することは少ないのかもしれませんが,この企業ではAさんに業務が集中していました。Aさんは様々なことに気が回り,配慮のできる方であり,また各方面を調整して問題対応するには自分が関わらなければと,本人の責任感も強いようでした。加えて,ご自身の処理能力が高いこともあって,業務を部下に任せることが苦手で,管理職でありながらドンドン業務が膨れ上がってしまっていたようです。
こうした業務が集中してしまうというご相談は人事部門以外の管理職の方からも時々お受けします。「部下では頼りなくて任せていられない」「部下に任せるとミスをしたときかえって大変なことになる」「短期間で解決する必要があるので自分がやってしまったほうが早い」などです。確かに業務に熟練した管理職が処理したほうが短期間で片付く仕事は多いでしょう。しかしそれでは部下はいつまでも育たないし管理職自身がパンクしてしまいます。プレイングマネジャーにも限度があります。山本五十六の教育論を見るまでもなく,「やってみせる」ことは大切です。しかしその後にたとえ多少時間がかかっても「言って聞かせて,させてみて,褒めてやらねば 人は動かじ」なのです。
Aさんから業務の大変さやご苦労,課題や将来目標などについてうかがった後,このままではAさん自身がパンクしてしまう可能性があることをお話しました。そうなってしまうと代わりがいないため,企業にとっては大きな打撃になること,大変ではあるけれど,これは部下育成のチャンスでもあることをお伝えしました。
社員教育プログラムの開発担当者でもあったAさんは,教育的側面を考え,業務を部下に任せることを検討してくださいました。抱えている業務の洗い出しとともに,実際に部下に任せる仕事を選び,どこでどのようなチェックを入れ,どのタイミングで報告してもらうか等を具体的に決めて実行することを約束していただきました。複雑な業務をすぐに任せるのは難しく,しばらくは楽にならないでしょう。それでもAさんは覚悟を決め,中期的な計画を立てたことでいくぶん楽になったようでした。

メンタル対応に追われたBさん

また,別の企業の人事担当者であるBさんとは,全国の従業員へのEAP窓口啓発の研修でご一緒しました。全国複数個所での拠点別営業会議の場で,ストレスマネジメントのお話をする時間をいただきました。数ヵ月して,休職していた従業員の復職が決まったとのことで,本人面談と受け入れ側メンバーへのセッション,管理職へのアドバイスのため,再びBさんと出張することとなりました。現場では本社に対する要望がかなりあり,その要望1 つひとつに丁寧に対応するBさんが非常に印象的でした。Bさんも先のAさんと同じく管理職で,仕事が集中しているようにお見受けしました。
その後,復職された方は順調にステップを踏んで助走を開始したという連絡をいただいたのですが,その直後,Bさんご本人が体調を崩してしまったので医療機関を紹介してほしいという連絡がありました。残念なことにBさんご自身は休職の後,退職されました。そこまで疲弊する前に,お手伝いできることがあったのではないかと悔やまれます。私たちEAPコンサルタントは,企業側の窓口である人事担当者の方とやり取りをする機会が多いこともあり,打ち合わせをしていると,「支援が必要なのはまずはあなたではないですか」と思うことが多々あります。人事担当者はそれだけ各方面に気を使う業務だということを自覚いただき,ご自身のケアについてもご配慮いただければと思います。

大谷 裕(おおたにゆたか)
㈱保健同人社 EAPグループ・臨床心理士・シニア産業カウンセラー。大学卒業後,スポーツメーカーに10年間勤務。退職後,大学院で心理学を学び修士号を取得し,現職。EAPコンサルタントとして,企業の「人財」を活かすための支援に従事。研修開発・講師としても全国で活動中。

(月刊『人事マネジメント』2012年10月号より)

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