EAPの現場から ~人事担当者のお悩み相談~第12回:ストレスチェックの活用法(最終回)

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『人事マネジメント』2012年10月号

働き盛りの命を救うストレスチェック

企業が実施するメンタルヘルス対策として,ストレスチェックは以前から行われていました。今回はストレスチェックの実施と有効活用についてお話します。
国がストレスチェックを企業に義務づけようとする動きがあることをご存知でしょうか。プライバシー保護の問題や,病人探しが始まって差別を助長する,または精神科受診者をいたずらに増やすだけ,仮病・詐病が疑われる人を量産する結果となる等,様々な意見,憶測が飛び交っていたようです。義務化の狙いを簡単に述べるならば,「ストレスの質の把握」ではないかと思います。超過勤務すなわち残業時間については既に労働安全衛生法で規定されています。しかし,残業時間が多くても健康な従業員はいますし,不調になる方もいらっしゃいます。ストレッサー(ストレスの原因)は単純に残業時間(量)だけで測れるものではなく,仕事へのやりがいや裁量権の有無,人間関係の状態でストレスの種類や質にも目を向ける必要があるわけです。
ご存知の通り,わが国の年間自殺者数は平成10年より3 万人を超え続けています。さらに,厚労省の統計によると,日本人の主な死因のうち,15~39歳の死因第1 位は自殺,40~49歳までの死因第2位も自殺だそうです。つまり,働く世代の多くが自殺で亡くなっているのです。そうした現状を受け,国は自殺防止の施策を行っています。踏み切りに注意を喚起する看板を立てたり,CMで「ゲートキーパー」への呼びかけをタレントが行ったりしているのはご記憶にあるでしょう。働く世代に対する対策も急務だという背景があるわけです。
以前からストレスチェックを実施している企業もたくさんありましたが,有効活用できているでしょうか。「前に1 度やってみたけど特にその後は何もしなかった。あれは意味があるのでしょうか?」と有効性を疑う意見もあります。費用を投資したにもかかわらず,それではもったいないし,継続するのは難しいでしょう。

目的を押さえ結果を活かす

当たり前のことですが,ストレスチェックをしただけでは,現状把握はできても改善にはなりません。大切なのは何のためにチェックを実施し,結果をどう活かすか,を見据えて実施計画を立てることです。ストレスチェックをする目的としては,①全社的なストレス状況の把握,②受検者個々人に自分の状態に気づきを得てもらい,セルフケアの一助とする,③組織分析することにより,対処が必要な職場を把握し,具体的計画を立案・実施する,等が挙げられます。

受検率を上げるためにプライバシーを守る

ストレスチェックを実施する際,受検者=従業員が気にするのは,「誰がどこまで見て,結果がどう使われるのか」ではないでしょうか。人事考課に利用される恐れがあったら正直に回答することを躊躇する方がいても不思議はないでしょう。
あらかじめ,ストレスチェックは個々の従業員のセルフケアと職場環境改善のために実施するもので人事考課とは全く関係がないこと,基本的な結果閲覧は産業医,保健師等の産業保健スタッフが担当し,人事は職場の全体傾向を把握するにとどめ,個々の結果まで閲覧することはないことをきちんと周知し,納得してもらう必要があります。企業内で産業保健スタッフが担当できないときは,外部EAPが担当することもあります。

受診結果が出たらセルフケアに活かす

ストレスチェックの多くは現在のストレッサーやそれによるストレス反応の程度を判定するものが一般的です。そして,その結果は回答時の主観によるもので,必ずしもずっと続くものではありません。「受検時の状態をこの尺度で測ってみた結果」ということです。現状分析ですので結果を踏まえてどう対処するか,が大切です。
ストレス度が高い状態と判定された場合,カウンセリングや受診等による相談を促されるという流れになっていることが多いのではないでしょうか。そこまで深刻ではないものの,自分のストレス状態を把握したら,対処のための情報が必要となります。結果の理解と合わせ,教育研修やデジタルコンテンツが閲覧できる等の用意が欲しいところです。
例えば保健同人社では『Co-Labo』というストレス診断ツールをお勧めしています。ストレッサーとストレス反応にプラスして,ストレスにどう対処するかというコーピングの視点を加えて判定し,様々な情報提供や研修等を実施して今後に活かしていただくよう促しています。

全体傾向をつかみ組織改善に活かす

人事部門が個々人の結果に関わるのは難しいところですが,組織分析の結果に対しては対処を検討する材料となります。部門・課単位,勤務地,職種,性別,年代,雇用状況等,様々な視点から組織分析をすることで,違いが見えてくることがあります。
以前から人事担当者が問題視している職場は判定結果が良くないことが多く,感覚と一致するようです。「どうやって職場環境改善の必要性を現場管理者や経営層に伝えるか考えていたが,1 つの提案根拠になった」とのお言葉をいただくことがあります。
結果の良くなかった職場に対しては何が問題で,どう改善できるかを考える必要がありますが,判定結果の数字だけでは推測の域を越えません。そうしたときはEAPコンサルタントが職場へのヒアリングを実施することで,数字では分からない課題が見えてくることがあります。また,管理職に対して検査結果を基に改善策を検討いただくワークショップを実施することもあります。耳の痛いことを言われてしまうケースもありますが,漠然と職場改善を検討するよりも目の前の結果を見て,職場の状態やマネジメントを振り返る機会としていただけるようです。こうした検討の結果,職場環境が改善されたり,マネジメント方法が良くなっていくことで,部下の方々はストレスチェックの結果から改善が行われているという実感につながり,受検率の向上,または正直な回答を導きやすいという良い循環が期待できます。

毎年の定点観測としてPDCAの根拠に

健康診断を毎年実施するように,ストレスチェックも毎年実施することが望ましいです。昨年度の結果を踏まえ,対処してきたことがどう反映されるかを確認することにもなり,PDCAサイクルの意識づけにもなるからです。それでなくても環境変化の著しい現代社会では,ストレス状況も1 年経てば大きく変わっていることが予想され,組織,または職場環境の改善は容易ではありません。ストレスチェックの結果はそうした改善結果をストレートに反映するものではありません。例えば大ヒット商品が生まれて業績が急激に改善すれば,施策を何も打たなくても判定結果は良くなることがあります。または,数々の施策を実施したにもかかわらず,リストラや経営環境が悪化すれば判定結果は悪くなるかもしれません。それでも組織・職場環境が悪いところに良い考え,またはヒット商品は生まれにくいと考えると,従業員の心身の健康をケアすることがひいては会社が発展していくには不可欠であることがお分かりいただけると思います。「人財」という言葉を今一度ご認識いただければ幸いです。

大谷 裕(おおたにゆたか)
㈱保健同人社 EAPグループ・臨床心理士・シニア産業カウンセラー。大学卒業後,スポーツメーカーに10年間勤務。退職後,大学院で心理学を学び修士号を取得し,現職。EAPコンサルタントとして,企業の「人財」を活かすための支援に従事。研修開発・講師としても全国で活動中。

(月刊『人事マネジメント』2012年11月号より)

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