EAPコンサルタントのコラム2015年5月(vol.64):アナ雪とマズロー

 

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アナ雪とマズロー

社会的欲求を満たすことの難しさ

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日頃の相談業務の中で、よく聞くのが「対人関係における悩み」です。職場、ママ友、友達や家族間の葛藤など、様々な社会における人との関わりが、私たちの生活の中で大きな存在かつ悩みの種となっています。この対人関係の悩みを理解するのには、アメリカの心理学者、アブラハム・マズローの欲求段階説が役に立つことがあります。マズローは、人間の欲求を5つの段階で表しています。ピラミッド型に例え、下から①生理的欲求、②安全欲求、③社会的欲求、④承認欲求、⑤自己実現欲求と分類しています。①から順に欲求が満たされると、上の段階の欲求が出てくるとされます。その中でも、③の社会的欲求は、自分が社会に必要とされる存在であること、人間関係の中で受け入れられ、所属できている感覚を必要とするもので、私たちが生きる上でどうしても気にかけてしまう対人関係に関わる欲求といえます。

近年、人との関わりの難しさゆえ、私たちは「ありのままの自分でいいんだよ」と背中を押してくれるものを、無意識に欲しているように思います。例えば、『アナと雪の女王』(以下アナ雪)の主題歌や、自己啓発的な日めくりカレンダーが空前のヒットになったのも記憶に新しいと思います。

『アナ雪』のエルサは、触れたものを凍りつかせるというたぐいまれなる能力により、この社会的欲求が満たされず、孤独感や社会的な所属への不安に苛まれていました。しかし、秘密にしてきた能力が周囲の人々に知られたことをきっかけに社会的欲求を捨て、自分を偽ることなく、ありのままの自分として生きていく覚悟を決めます。それが大ヒットの歌で表現されていました。みなさんの中にも、エルサに自分を重ね、社会的不安からの解放をイメージし、熱唱された方も多いのではないでしょうか。エルサがそうであったように、すべての欲求は満たされずとも、ありのままの自分を認めることができると、不安が軽減され、「自分は価値ある者」といった自尊感情を持てるのかもしれません。

“ありのまま”と“わがまま”の境界線自分と向き合う

上述のように、ありのままの自分を認め、自分らしく生きるということは、私たちが心身共に健康でいる上で、確かにとても大切な感覚といえます。ただし、「自分らしく生きること」と「ありのままにふるまうこと」は大きく異なります。誰もがありのままにふるまったら、組織として成り立たない可能性があり、会社としては生産性が上がっていかないという状況に陥るかもしれません。また、自分らしく生きようと、ありのままの自分を表現し続けることで、周りから「自分のことしか考えていない人」、すなわち「わがまま」と見られてしまうということもあるでしょう。

実際、エルサは完全に社会を遮断して、自分らしく生きていこうとしましたが、自分の意図しないところで周りの世界に迷惑をかけていました。はたから見れば、「わがまま」なふるまいとも言えるでしょう。

現実社会において私たちは、周囲とのかかわりを一切断つことは難しく、何かしらの社会に所属し、人とかかわって生きていくことが求められます。社会の中で認められながら、自分らしく生きるという難しい課題を要求されているのです。

社会の中の「自分」を知り、認めること

結局私たちがより良い生き方をしていくためには、社会に適応できるように周りに合わせなければならないのではないか、自分を偽ることなく、ありのままの自分でいるなんてことは、机上の空論ではないかと思われるかもしれません。確かに、相手の立場や状況を思いやり、折り合いをつけていくことは、社会に所属するうえで不可欠なスキルといえます。ただ、相手ばかりを見て、自分を押し殺してばかりいては、自分のこころやからだのどこかにひずみが生じてしまうでしょう。

社会の中で「自分らしく生きる」ために、まずは、「自分自身を知る」ことが第一歩となります。自分自身を認め、大切にするということは、同時に相手の気持ちや意見を尊重することにもつながります。人との関わりの中で、自分の強みや弱みを知り、それを全部ひっくるめた自分自身を認めること、つまりは「ありのままの自分を受け入れる」ことで、はじめて社会に適応しつつ、ありのままの自分を活かすことができるのではないでしょうか。

エルサは自分の能力を恐れ、否認している間はその力をコントロールすることができませんでした。しかし、ありのままの自分を受け入れ、さらにアナや周りの人々を思いやる心を持つことで、自分の能力を社会に適応する形で発揮することができるようになったのです。ありのままの自分を認め、かつ相手も自分同様、尊重すべき存在として認める、そんなあり方を『アナ雪』から改めて教わった気がします。

(参照)Maslow, A.H.:“A theory of human motivation” Psychological Review pp.50, 370-396(1943)

(2015/05/13)

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