EAPコンサルタントのコラム2015年7月(vol.66):どう変える!マニュアル化する接客と指導

 

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どう変える!マニュアル化する接客と指導 ~今回は物語風に~

馴染みの店にて

近所のクリーニング屋へ立ち寄った時のことだ。その店は家族全員が顔なじみ。預り証を忘れても、自宅の電話番号を言わなくても、いつものパートさん(女性)が「〇〇さんですね」と言って洗濯物を出してくれる。「お子さんはお元気ですか?」といった二言、三言の世間話をできるのは、近所でもこの店くらいのものだ。本当はいけないようだが、手ぶらで受け取りに行った時には有料の袋に入れてくれたり、ポイントカードのスタンプを1つ余分に押してくれたりする、そんなありがたいクリーニング屋である。

その日は雨が降っており、私は仕事帰りであった。店にはいつものパートさんの他に、珍しく社員と思しき女性が1人。パートさんは私の名前を呼び挨拶をしてくれたが、接客中だったために社員さんが私の前に立った。預り証がないことを私が伝えると、社員さんは電話番号と名前を確認し、取り出してきたワイシャツと伝票を照合する。そして、ワイシャツを三つ折りに畳み、「はいどうぞ」と笑顔で差し出してくれた。それを袋には入れずに。その脇では、すでに接客を終えていたパートさんが、私の視線を避けるようにうつむいたまま、「ありがとうございました」と声をそろえた。私は、雨の中、数枚のワイシャツを抱えながら帰宅することになったのである。

マニュアル化するコミュニケーション

会社の立場では、余計なサービスはコストであるから、マニュアル通り対応するというのは合理的な考え方です。失礼がないように、間違いがないように、客を待たせないように迅速に対応することが重視されます。その点では、社員さんの接客は完璧と言ってよいものでした。しかし、客の立場では、そのような無駄のない、均質化されたサービスはなんだか味気ないものです。店員さんの対応にはとくに問題はないのに、なんだか後味が悪いような、客として「大切にされていない」ような、そんな気持ちになることってありませんか。

企業で研修講師をしているとよく質問を受けます。例えば、管理職のためのメンタルヘルス研修では、「部下の話を聴くと言いますが、どこまでプライベートに踏み込んでよいのですか?」。またハラスメント対策研修では、「ミスをした部下に課題を与えるのはハラスメントになりますか?」。これらは「答え」を求める質問であり、この「答え」こそがマニュアルになります。それぞれ一応の指針とも言うべき対応はあるのですが、単純に〇か×かで答えを求められると困ってしまいます。なぜなら、マニュアルはあくまでもこちら側のルールであって、それを相手に理解してもらうプロセスが別途必要であるからです。

自尊感情に触れる言葉

人には周囲から価値ある人間だと認められたい、スペシャルな存在として扱われたいという感情があります。これを自尊感情と言います。自尊感情は、普段は意識されることは少ないですが、失敗した時や不利な状況に陥った時などに活性化します。「そんな話は聞いていなかった!」、「説明が足りない!」、「これくらいやってくれないのか!」などのクレームは、たいてい自尊感情が刺激されて起こるものです。

例えば、部下の不調への対応では、「あなたのことを心配しているんだよ」という上司の気持ちを伝えることが肝心です。また、部下の育成指導では、「あなたに成長してもらいたいからこの課題をお願いするんだよ」という意図を伝えるとよいでしょう。これらは本人の自尊感情に触れる言葉です。このような「あなたをスペシャルな存在として認めていますよ」というメッセージを伝えることで、相手の自尊感情は満たされ、こちらの主張を受け入れてもらいやすくなります。このプロセスをいかに遂行するかが上司の腕の見せどころであり、研修で学んでいただきたいところなのです。

たとえ、『袋は渡さない』という対応マニュアルは譲れなかったとしても、「申し訳ありませんが袋は差し上げられないのです。雨が降っていますが大丈夫ですか?」と一声かけてくれたなら、私は袋を持参しなかったことをその場で反省できたかもしれません。

エピローグ

後日、クリーニング屋を訪れた時には、いつものようにパートさんが一人であった。またしても私は手ぶらで行ってしまったが、いつものように挨拶を交わすと、何も言わずに洗濯物を袋に入れてくれた。「社員さんに気を使いますね、いつもありがとう」という気持ちを込めて、私は軽く会釈をして店を出た。しかし、すぐにそれは間違いであることに気づく。そもそも私が袋を持参しないのがいけないのだ。その日以来、私はビジネスバッグに袋を常備しておくことにしたのだった。

(2015/07/14)

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