EAPコンサルタントのコラム2016年12月(vol.83):日本柔道復活の切り札とは
――ストレスチェックで測れる組織の見えざる力

 

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日本柔道復活の切り札とは ――ストレスチェックで測れる組織の見えざる力

今年も十大ニュースがあちこちで取り上げられる季節になりました。   今年印象に残ったニュースを10個挙げるとしたら何を入れますか?  私は「リオデジャネイロオリンピック」をランクインしました。

盛り上がった今年のオリンピック

 リオデジャネイロオリンピックでは、日本の選手が大活躍。毎日更新されるメダルの数が、自分の成績表のように思えました。カヌーなど、日本初のメダル獲得をなしとげた種目もあり、男子体操団体や個人総合の金メダル、男子陸上4×100mリレーの銀メダル、日本柔道勢のメダルラッシュ、女子レスリング伊調馨選手の4連覇、惜しくも銀メダルに泣いた吉田沙保里選手などなど、にわかスポーツ観戦ファンになって声援を送り、試合後は選手の顔を見てもらい泣きです。職業柄か、試合後の選手のコメントを聞いて言外の気持ちを読んでみたり、性格傾向や親子兄弟関係に思いをめぐらせてみたりと、これは余計なお世話ですね。

進化する選手のメンタリティ

 種目によっては、体格的に決して有利とは言えない日本選手たちが、勝ち上がっていくのには理由があるはずです。ここからは、にわかスポーツ観戦ファンが「ミーハー的に想像する舞台裏」が多分に入っていますので、お含みおきくださいね。まず、選手たちを支える経済力の影響は大きいでしょう。何と言ってもお金です。強化合宿や先進の技術を取り入れたトレーニング施設。効率的な練習装備に優秀なコーチ。そして技術力や新しい知識を駆使した育成法。運動生理学や栄養学についてもおそらく新しい知見を、練習や普段の生活に取り入れているはずです。これらはすべて、経済力によって支えられています。

 そして、選手たちのメンタル面については、観戦しつつもどうしても関心がいきます。イメージトレーニングやコーチングはもちろん、いろいろなメンタルトレーニングが取り入れられていることでしょう。1964年の東京オリンピックでは、鬼の大松監督と女子バレーボールチームなど、勝たねばならないという悲愴感が漂っていたように思います。それが、今では「試合を楽しんできたいと思います」とどの選手も発言するようになりました。この発言も、耳にするようになった当初は、「はたして本心なのだろうか」「皆がそう言うから、言わないといけないという風潮なのかな」と思わせられましたが、最近の選手は本当に「楽しんできます」といった発言が板についてきました。借り物ではなく、自分の言葉で自信をもってそう言っているのが伝わってくることが多いです。日本人のメンタリティも変化(もっと言えば進化)していると思います。

見事に復活した日本柔道

 それにしても、日本男子柔道勢の復活には、はまりました。4年前のロンドン五輪では、金メダルがひとつも取れなかったことを覚えていらっしゃる方もいるでしょう。しおしおと帰国した選手たちの姿を思い出します。その時は、「金メダルを取るだけが能じゃない。参加することに意義があると近代オリンピックの父・クーベルタン男爵も言っている」と思いつつも、やはり日本のお家芸「柔道」なのに、もう世界に太刀打ちできなくなったのか、と残念な思いは否めませんでした。その翌年には、複数の女子柔道選手がパワハラの告発をしたというニュースが流れました。やはり日本柔道はもうダメなのか…と横目でニュースなど見ていたところへ、今回のオリンピックです。男子柔道は全階級でメダルを獲得、女子柔道も5個のメダルを獲得しました。

 これは何かウラがある、と思い調べてみると、そこにはやはり井上康生全日本男子新監督の改革があったのでした。シドニー五輪で、オール一本勝ちで金メダルを獲得、表彰台の上でやおらジャージの上着の下から亡くなったお母様の遺影を取り出して高々と掲げた、あの井上選手です。

復活の切り札とは

 井上監督の改革は数多くありました。ただ量をこなすだけの稽古ではなく、科学的なトレーニング手法を取り入れる、栄養学も視野に入れて食事と休養のバランスのとれた試合・練習スケジュールを組む、軽、中、重量級別に違うコーチをつける「担当コーチ制」を復活させる。また強化合宿では、都度、目標を決めて目的を明確化させる、などなど、これ以外にも新しい試みはたくさんあります。もちろん、「金メダルでなければメダルじゃない」、つまり勝たなければ意味がないという精神論もしっかり生きているのです。

「担当コーチ制」を職場にも応用

 こういった改革のうち、「担当コーチ制」について考えてみました。陸上の短距離、長距離と同じように、柔道でも階級が違えば、有利な技や練習方法、対戦するときの「戦略」が違うはず。コーチが自分と違う階級の専門だと、「こんなことを聞いても教えてくれるのだろうか」、「本当に自分に合ったアドバイスなのだろうか」という気持ちが沸いてしまうかもしれません。自分と同じ階級を体験し、よく知っているコーチだと思えば、「こんなことも聞いてみよう」、「こんな経験をしたことはなかっただろうか」と質問する気にもなるのではないでしょうか。実際、担当コーチは選手の様々な練習先に顔を出して、コンディションを把握するように努めていたそうです。そこに生まれるのはコミュニケーション、そして信頼です。これを聞いて何か思い浮かびませんか。そう、職場でいえばこれこそ「周囲のサポート」なのです。

 ストレスチェックでは上司・同僚のサポートを測ることが必須となっていますが、職業性ストレス簡易調査票では「困ったことがあった時や相談をした時に、(上司・同僚・家族や友人が)話を聞いてくれるか、頼りになるか」という設問となっています。上司が自分のやっていることをわかっている、理解してくれていると思えてこそ、コミュニケーションが生まれ、相互のサポートが高まるのだと思います。さらに、「見てもらえる」⇒「わかってもらえる」⇒「評価してもらえる」、この3ステップがホップ・ステップ・ジャンプにつながり、良循環を生み出していくのです。

組織力を高めるために、職場で求められるもの

 コミュニケーション、サポート、と口では言ってもイメージが沸かない管理職もいるかもしれません。まずコミュニケーションは、量的に増やすこと。役に立つアドバイスをしなければ、効果的な介入をしなければ、という以前に、やりとりの量を増やすことです。管理職研修で、私たちはよく「あいさつプラス一言」をとお伝えしていますが、「おはようございます」のあいさつに一言、「昨日は大谷選手が2億7千万で契約更改したね」とか「インフルエンザが流行しているけど、予防接種受けた?」とか付け加えてください。一言付け加えるためには、相手がどんなことに反応しそうか普段の言動を知っておかないといけません。必然的に部下をよく見ることにもつながります。コミュニケーションが量的に増えるだけでも、相互のサポート感を高める効果があると言われています。

最後にどうしても一言加えておきたいこと

 最後に。おそらく体質的には古いであろう柔道界で、こうした改革を実行した井上康生監督。オリンピック後のインタビューで、号泣していた姿にもうなずけるものがありましたが、やはり私はシドニーオリンピックでの表彰台の姿を思い浮かべます。正確なところは知りませんが、遺影などは、本当は表彰台には持ち込み禁止なのだそうです。そこを係員の配慮か(?)持ち込むことができ、自分の意を遂げた井上監督。やりたいとは思っても、人が二の足を踏むことを、やんちゃ坊主そのままにやってしまう。そこに私は井上監督の「愛嬌」と、人から信頼される素地を強く感じました。

(2016/12/15)

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