EAPコンサルタントのコラム2017年2月(vol.85):
うちの親は大丈夫? ~高齢ドライバーの安全性を考える~

 

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 今回は、高齢ドライバーの事故をテーマにしたいと思います。ここ数年、テレビや新聞などでたびたび伝えられ、それを聞く度に皆様もきっと胸を痛めたことと思います。それとともに「うちの親は大丈夫かな?」と不安になった方も多いのではないでしょうか。

事故内容から見えてくること

高齢ドライバーによる事故の報道は、次のような内容です。

  • さいたま市で81歳男性による死亡事故。運転手は「アクセルとブレーキを間違った」と供述。
  • 東北自動車道でトラックと70代が運転する軽乗用車の衝突死亡事故。軽乗用車の逆走が原因。
  • 横浜市で87歳が運転する軽トラックが小学生の列に突っ込む死傷事故。運転手は認知症の疑い。

 ここから見えてくることは、事故の背景には普通ではありえない勘違いや不注意、さらには認知症の疑いがあるということです。高齢ドライバーのうち、75歳以上のドライバーが平成26年に起こした死亡事故は471件に及びます。そのうち事故を起こす前に高齢者講習会の認知機能検査を受検していた方は438人でした。認知機能検査の結果、4割以上の方が認知症の恐れまたは機能低下があることが警察庁交通課の分析でもわかっています。 相次ぐ高齢ドライバーの事故をふまえ、国も対策に乗り出し、昨年、道路交通法を改正しました。認知症対策を強化した改正法は今年3月に施行されます。詳細は割愛しますが、改正によって従来よりも高齢ドライバーの認知症を発見・診断する仕組みが整えられたため、認知症と診断される方が増えることが予想されます。認知症と診断されれば免許取り消しまたは停止となります。

親のことを知ることから

 事故防止に努めるのは第一にドライバーご本人ですが、そのドライバーを親(または祖父母)に持つ者としてできることはないか(このコラムを読む皆様の多くはまだ高齢者ではないと思われますので)、その辺りは気になるところでしょう。できることの一つとして、『運転行動チェックリスト』の活用があります。これは認知症の専門医として、高齢ドライバーの事故対策に取り組んできた、高知大学医学部講師の上村直人(かみむら なおと)医師が作成したものです。運転において重要な「記憶力」「理解力」「注意力」「集中力」「空間認知能力」「感情の抑制」などに問題がないかを確かめられます。ドライバーご本人のチェックとご家族などによるチェックを比較することで、ご本人が自覚していない危険サインを見つけることもこのリストの目的とするところですので、活用してみてはいかがでしょうか。

 ほかに、ご本人に健康診断を勧めるのも有効です。事故は認知症だけではなく、運転中に不意に起こる身体的な症状や発作(例えば、狭心症や心筋梗塞といった心疾患、脳卒中、低血糖など)による事故も少なくないため、自分の身体の状態を知っていただく、また家族もその情報を共有しておくことは大切です。いずれにしても、親のことを知ることが大切で、そのためのコミュニケーションは必要です。

【運転行動チェックリスト】※1

項目内容
1.行き先・目的地を運転中忘れる 「もの忘れ」の兆候があります。
悪化すれば、今どこを走っているかわからなくなくります。
2.中央線・センターラインの不注意 距離感などを把握する「空間認知能力」の低下の兆候があります。
悪化すれば、対向車との衝突事故などを起こす危険性があります。
3.車庫入れ・枠入れの失敗 距離感などを把握する「空間認知能力」の低下の兆候があります。
悪化すれば、自損事故や衝突事故などを起こす危険性があります。
4.道路標識・信号機の理解 「理解力」あるいは「感情を抑制する力」が低下している兆候があります。
悪化すれば、標識・信号の無視による事故を起こす危険性があります。
5.速度制限・速度の維持 「集中力」あるいは「感情を抑制する力」が低下している兆候があります。
悪化すれば、スピードの出しすぎによる事故を起こす危険性があります。
6.交通標識への注意力維持 「注意力」・「集中力」の低下の兆候があります。
悪化すれば、他の車や自転車、歩行者を巻き込む事故などを起こす危険性があります。
7.運転操作
(ブレーキ・ギアチェンジなど)
「集中を維持する力」が低下している兆候があります。
悪化すれば、ブレーキとアクセルの踏み間違えによる事故などを起こす危険性があります。
8.自転車のメンテナンス
(ガソリン・オイル等)
メンテナンスのし忘れが頻発していれば「もの忘れ」の兆候があります。
悪化すれば、路上でのガソリン切れ、エンジン停止などの危険性があります。
9.他の交通者への注意維持
(歩行者・自動車等)
「注意力」・「集中力」の低下の兆候があります。
悪化すれば、他の車や自転車、歩行者を巻き込む事故などを起こす危険性があります。
10.車間距離の維持 距離感など「空間認知能力」や、前方の車と適切な距離をとる「判断力」が低下している兆候があります。
悪化すれば、前後の車と衝突する事故などを起こす危険性があります。

※1 医師 上村直人.高知大学.精神科, "運転行動チェックリスト", (参照 2017-2-14)

 

状態によっては尊厳ある運転中断の勧めを

 親(または祖父母)の状態を客観的に見て、運転はやめるよう伝える必要に迫られることが今後あるかもしれません。その際に気をつけておきたいことは、本人の自尊心を傷つけないことです。運転免許証はただ運転を許可された国家資格だけではなく、わが国では国が認める身分証明証の代表格として存在しています。特に退職後の高齢者にとっては社会的立場、健康の証としての存在意義が大きく、自ら手放すということにはさまざまな葛藤があるはずです。また、運転できないことは自尊心の問題だけではなく、地域によっては日々の生活に直結した切実な問題でもあります。運転中断でたとえ事故を防ぐことはできても、それに伴い高齢者の生活の質を落とす恐れがあることに、高齢ドライバーの問題の難しさがあります。

 とはいえ、ドライバー本人だけで問題に当たるよりも、家族が本人の健康状態や生活環境を知り、一緒に考えていくほうが、問題のより良い解決につながることは確かでしょう。誰でも皆、年を取ります。高齢化に伴う問題は、今は親の問題であっても、やがては自分の問題になります。解決は決して簡単ではありませんが、出来るところからやっていく、他人事ではなく自分の事として関与していくが大切なのではないでしょうか。そうした小さなことの積み重ねが、少子高齢化社会での安心安全な暮らし環境を速やかに構築していくものと思います。

(2017/2/14)

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