EAPコンサルタントのコラム2017年3月(vol.86):会議で発言を促すには? ~学習心理学を用いて

 

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 「心理学を学んだ臨床心理士は人の心が読めるのですか?」と真顔で聞かれることがあります。残念ながらそんなことはありません。相手の気持ち(ココロ)がわからず失礼な発言をして失敗することだってあります。日々悩んでおります。さて今回は、人の行動について、ちょっとだけ心理学の目線で説明してみましょう。

意外?とたくさんある心理学の領域

 私たち臨床心理士は臨床心理学を専門としています。それは、悩んでいる人を援助する方法について考える学問です。心理学には他にも発達心理学、社会心理学、教育心理学、学習心理学などなど、実はたくさんの領域に分かれています。 その一領域である学習心理学は、動物が経験を通じて行動を変えていく過程を研究する領域です。ロシアの生理学者イワン・パブロフの、犬を使った実験をご存じでしょうか。学習心理学には条件付けという基本的な理論があり、パブロフの犬はこの条件付け理論を使った実験として広く知られています。

①犬にエサを見せると唾液を出す。
②エサを見せると同時に鈴を鳴らす。
③それを繰り返すと、鈴を鳴らすだけで唾液を出すようになる

というものです。この条件付けはレスポンデント(古典的)条件付けと呼ばれています。他にも、たまたまくちばしで突起(ボタン)を押したらエサが出てきたという経験をした鳥が、エサを食べるために繰り返しボタンを押すようになるという実験もあります。これはオペラント(道具的)条件付けと呼ばれています。

 

愛犬に芸を教える時にどうするか?

 オペラント(道具的)条件付けは日常いろいろなところで見受けられます。例えば、愛犬に「お手」など芸を教える時には、愛犬の手を取り、「お手」と言いながらエサをあげます。これはオペラント(道具的)条件付けです。そして1度で「お手」ができるようになるわけではなく、エサをあげながら繰り返すことで愛犬はお手をすればご褒美(エサ)をもらえることを覚える(学習する)ようになります。

 このご褒美を学習心理学では強化(報酬)と呼び、繰り返し強化することを連続強化と呼びます。また、強化は連続させるだけでなく、場合によって強化する方法(部分強化)もあります。つまり、毎回は強化(報酬)を伴わせない方法で条件付けるというものです。部分強化では行動を強化しにくいように思うかもしれませんが、そうではありません。時々しか儲からないパチンコがしたくなるのは部分強化の分かりやすい例だと言えばご理解いただけるのではないでしょうか。

ヒトの行動も同じ理屈で説明できます

 私たちの行動も、同じ理屈で説明ができます。

 最初は問題解決しようと起こした行動ではなかったとしても、泣く、暴力的に振る舞うという行動が問題解決につながったとしたら、それは成功体験となります。その体験を繰り返すことは連続強化(報酬)となります。オペラント(道具的)条件付けであることがお分かりになるでしょう。

 また、強化を報酬としてご説明してきましたが、報酬を与えない、または罰を与えることで、自発行動をやめさせることもできます。これを消去と呼びます。何度お手をしてもご褒美をもらえなかったり、叩かれるなど嫌な体験を繰り返したら、やがて愛犬はお手をしなくなります。

 こうした場面を目にすることはないでしょうか。意見を言って叱られるのはご本人である必要はなく、目撃しただけでも学習することは可能で、これは観察学習と呼ばれます。

悪しき学習を消去するためにできること

 以上のように、私たちの行動は、過去の経験から学習してきたものだという説明ができます。では逆に、悪しき学習、または習慣を改めることもできるのではないでしょうか?それについて考えてみましょう。

ということになるでしょう。

 その際注意することは、泣く、暴力的振る舞いは、問題解決につながらないことを学習してもらうことです。つまり、通用したりしなかったりということになると、それは部分強化となります。部分強化によって形成された行動は、連続強化するよりも消去されにくいという実験結果があり、逆効果です。これをハンフレイズ効果(強化矛盾)と呼びます。問題行動に対しては解決しないことを繰り返し経験することで消去し、別の望ましい行動により問題解決できたという成功体験を複数回学習することで、泣く、暴力的振る舞いは減少させることができると考えられます。

ことが必要だという説明ができるでしょう。

 最後に少々怖い話をします。これまでは報酬や罰によってある行動を学習していくという話をしましたが、学習性無力感という言葉をご存じでしょうか。米国の心理学者マーティン・セリグマンが発表した心理学理論です。長期にわたり、ストレス回避困難な環境に置かれた人は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるというものです。つまり、「何をやってもダメだ」という無力感を学習する、ということです。拉致被害者やDV被害者、社会的ひきこもり、会社のモラルハラスメント被害者、いわゆるブラック企業で過酷な労働を強いられている人など、ストレス環境下でもその場から逃げ出さない人がいます。その行動の根拠を説明する理論として使われています。

 過酷な状況から抜け出すのは周囲が考えるよりも簡単ではありません。「行動しても無駄である」という信念(認知)を学習してしまっているからです。まずはその状況から保護することが優先されますが、信念を変えるためには、認知行動療法のような、カウンセリングが有効な支援とも考えられています。

(2017/3/21)

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