2011年8月(vol.22):「私は被災していないから大丈夫なんです」~二次被害について

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「私は被災していないから大丈夫なんです」~二次被害について

こんなご相談を受けました

相談者は若い女性です。仮にKさんとしましょう。きちんとした服装と凛とした表情の方で、真面目で熱心そうな印象です。でも顔色はあまりよくありません。尋ねると、「被災地にボランティアで行ってきました。本当にひどいです」とおっしゃり、夜もあまり眠れないとのことです。声が震え、話そうとするものの言葉が詰まり、ただ「ひどいです」「地獄です」としかいえません。

衝撃を受けた様子がとても生々しく伝わってくるので、帰ってきたばかりかと思いました。しかし、尋ねたところ、4月のことだと言います。つまり1カ月以上前のことです。にもかかわらず、まるで昨日のことであるかのような語り方と様子です。

さぞ恐ろしく衝撃的な思いをされたことでしょう、とねぎらいましたが、「私なんかの体験は何でもありません」と否定されます。ご自身の家は関東で、家も家族も被災していないとのことで、「だから私は大丈夫なんです」とおっしゃいます。

ですが、近親者や財産を失わなくても、心理的なダメージを受けることは十分にあるのです。

「二次被害」とは

直接自分や家族が被災しなくても、職業やボランティアで被災地や被災者と接し、その体験から強い衝撃を受けて、心理的なダメージを受けることを、二次被害といいます。今回の震災でも、過酷な遺体収容などで精神的ストレスを抱える自衛官が多く、心のケアを強化することになりました。また、報道するニュース映像から悲惨な場面をカットする作業をしている報道関係者の中にも、ストレス症状が出ていることが報告されています。

被災者を援助する立場にある職業やボランティアの方々は、職業意識や役割意識から、「自分たちがダメージを受けてはいけない」と思ってしまう傾向があります。また、被災者のつらさ苦しさを目の当たりにする中で、例え自分もショックを受けたりつらい気持ちになったりしたとしても、「自分は恵まれている。ストレスなどといってはいけない」とも思ってしまいます。

役割意識は、多くの場合私たちの支えになります。子どもを持つ母親が、「この子のためにクヨクヨしていられない」と気持ちを立て直すのも、子どもへの愛情とともに、母親という役割意識が立ち直りを支えるのです。

しかし、強い役割意識は諸刃の剣です。役割に自分が支えられるのも事実ですが、それが「~ねばならない」「~してはならない」という意識にまで凝り固まってしまうと、私たちを縛る鎖になり、自分の出している危険信号を無視し、二次被害のケアを遅らせてしまいます。

では、どうやってそれを防げばいいのでしょうか。

ハイパーレスキュー隊のインタビューを覚えていますか?

震災後の原発事故対応で、東京都消防庁ハイパーレスキュー隊の活躍は、私たちのこころに強い感動を与えました。

私が隊員たちのインタビューを見ていて印象的だったのは、「震えがきました」「怖かったです」と率直に口にしておられたことでした。想像ですが、あのチームの中では、自分が感じた気持ちを率直に表現できる、分かち合える文化があるのではないでしょうか。

二次被害を軽減するために非常に重要な要因、それはチームで体験を分かち合える雰囲気、文化です。「恐ろしかった」「つらくなった」と正直に言葉にでき、互いにそれを受け入れあえる土壌です。一人では受けとめきれない衝撃を、チームで見えない網を作って受け止めるのです。

もちろん、そういうチームの中にあっても、受けたストレスがあまりにも大きくて、症状があらわれる場合もあります。その場合は、もちろん専門家のケアを受ける必要があります。しかしチームで分かち合う土壌があれば、そういう人の早期発見にも繋がるのです。

Kさんの話に戻りましょう

Kさんにも二次被害のことをお話しましたが、「私は大丈夫なんです」とおっしゃって、中々受け入れていただけませんでした。しかし、その後、見た光景がいつも生々しく思い出されることや、いつなんどき自分にも起こるかわからないという不安を話されました。それからしばらく黙って、「私、大丈夫じゃなかったんですね」とおっしゃいました。

眠れない日が続いていますし、できれば受診を、ともおすすめしましたが、それについてはもう少し様子をみたいとのことでした。それでも、ご自分が調子を崩しておられることは理解され、「様子を見て、回復しなければ、受診も考えます」とおっしゃって終わりました。

Kさんは、元気になったらまたボランティアに行きたいとおっしゃっていました。

※Kさんの事例は、実際のご相談をもとに、本質を損なわない程度に改変したものです。

(2011/08/01)

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