2012年8月(vol.31):管理職研修 「山本五十六の教育論を心理学にみる」

 

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管理職研修 「山本五十六の教育論を心理学にみる」

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば 人は動かじ」

この言葉は、教育者として知られ、人望に厚く、部下にやる気を出させることが非常に上手かったという山本五十六の名言です。この言葉を、バンデューラ(Bandula,A.)という心理学者が提唱したセルフ・エフィカシー(自己効力感)という考え方にあてはめて説明していきたいと思います。セルフ・エフィカシーとは、ある行動について個人がもつ「このくらいまでできそうだ」という考えや感覚のことをいいます。山本五十六はなぜ教育者として有名になったのでしょう? 名言の持つ意味を、一つひとつひもといてみたいと思います。

この「やってみせ」の部分は、心理学的に考えるとバンデューラが提唱した「モデリング(代理的経験)」に相当するといえます。モデリングとは、うまくやっている他人の行動を観察すると、自分にもできそうだという気持ちが芽生え行動に結びつくことです。どうしたらよいかわからず困っている部下に気づいたら、まずは自分がやってみせることが「自分にもできるかもしれない」という希望的な予測をもたせ、心理的に苦しい状態から脱する助けにもなります。

次の「言って聞かせて」は、「言語的説得」というものにあたります。これは、自己強化や他者からの積極的な暗示を受けることです。部下が、初めての仕事や難しい仕事等に直面し、自信を持てずにいる時に、「君なら大丈夫」「自分も一緒にやるから」といった声をかけ、うまく背中を押すことがこれにあたります。

次の「させてみせ」は、「情動的喚起」というものにあたり、実際に生理的な反応の変化を体験してみることです。仕事上での難しい局面、自信の持てない場面に直面すると、心臓がドキドキしたり、身体に力が入ったりと緊張状態になります。「やってみせ、言って聞かせ」た上で、それを実際に体験させることが部下の成長につながります。例え失敗したとしても、それを見守り、挑戦したことを正当に評価してくれる存在が身近にいることは、部下にとってはサポートになり、ストレスの軽減にもつながります。

「褒めてやらねば」については、容易におわかりいただけると思います。上司に褒めてもらえば純粋に嬉しくなり、部下にとっての「成功体験(遂行行動の達成)」となります。

セルフ・エフィカシーは高められる

大切な事は、部下のセルフ・エフィカシー、即ち「これくらいならできそうだ」と思える気持ちは、生来決まっている訳ではなく、上述してきた「モデリング(代理的経験)」、「言語的説得」、「情動的喚起」、「成功体験(遂行行動の達成)」によって作りだし、高めていくことができるという点です。山本五十六の言葉は、まさに部下のセルフ・エフィカシーを高めるコツを説いた言葉といえます。セルフエフィカシーを高めるという技法は、心理学の中で多く研究され、現在では不安の高い患者さんへの治療法としても確立しています。しかしながら、こういった心理学の中での考え方は、メンタル不調の予防にはもちろん、健康な人をより生産性の上げられる人に、また成長力のある組織を作っていく上でも役立ちます。

ご存知の方も多いと思いますが、冒頭の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば 人は動かじ」には以下の続きがあります。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。

やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

これらの言葉も同様に、言語的説得や情動喚起を部下に促すコツと言えます。よく話合い、またじっと見守る中で、上司と部下の信頼感が醸成されていくことが示唆されます。実際、山本五十六は、敵艦に自らの命をかけて突っ込んでゆく部下たちに、感謝と信頼の言葉をかけていたことが多くの記録に残されており、それが故に部下から非常に人気のある人だったようです。

上司をよきキャリアモデルへと教育する

上司は若者のキャリアモデルです。若者は自分の上司をみて、将来を考えます。失望し転職する人もいれば、「この人について行こう」と思った上司のために多少の辛い仕事でも一生懸命取り組む人もいるでしょう。

これまで述べてきた事が大切なのはわかるけれど、上司も忙しくてそこまでする時間も余裕もない、ということも実際あると思います。だからといって、放っておいてよくなるわけではありません。部下を思いやる行動を管理職研修等で体系的に効率よく教育し、キャリアモデルとなれる人物を育てる仕組み作りが必要な時代になってきているのではないでしょうか。

(2012/08/06)

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