2012年9月(vol.32):治療と職業生活の両立

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治療と仕事の両立社会

労働人口低下社会における治療と仕事の両立の議論

我が国は、先進諸国に先駆けて本格的な「超高齢社会」+「人口減少社会」に突入しました。2010年に高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)が22.7%となり、2013年には65歳以上が4人に1人、2035年には3人に1人に達すると予測されています。また、2005年から人口は減少に転じ、2046年には1億人を下回るとも予測されています。

人口構造の急激な変化は、就業構造にも影響を及ぼし、労働力人口の低下も懸念されています。この「労働力人口低下」をめぐっては、「労働者の生産性の向上」「女性労働者の活用」「高齢者の雇用拡大」「外国人労働者の導入」など既にさまざまな議論が展開されています。

労働戦力の低下に繋がる「労働者の疾病対策」に目を向けてみましょう。メンタルヘルス不調については認識が広まり、ストレス対策や職場復帰支援など、具体的なメンタルヘルス対策に取り組む企業は3分の1に達しています。一方、がんや糖尿病など病気全般を対象とした治療と仕事の両立のための取り組みについては、その議論がようやく緒に就いたところです。

次期がん対策推進基本計画

毎年20歳から64歳までの約22万人ががんに罹患し、約7万人ががんで死亡しています。がんは40代より死因の第1位となり、働く世代にとっても大きな問題です。一方、がん患者の5年生存率が平均で50%を超え、慢性疾患として付き合う患者も増えています。医療技術の進展に伴い、働きながらの治療も可能になりつつあります。しかし、がん患者の復職や就職は依然として難しいのが現状で、がん患者とその家族は、肉体的、経済的負担だけでなく、治療と仕事の両立が難しいなど心理的、社会的負担と苦痛も抱えています。

政府は今年6月に、今後5年間の「次期がん対策推進基本計画」を閣議決定し、「働く世代へのがん対策の充実」を重点的に取り組むべき課題として新たに盛り込みました。働く世代ががんに罹患し職場を離れると、本人だけでなく家族や同僚にもその影響が及びます。そのため、働く世代のがん検診受診率を向上させるための対策、死亡率が上昇している乳がん・子宮頸がんなど女性のがんへの対策、がんに罹患したことに起因する就労を含めた社会的な問題等への対応が必要であるとして、がんになっても安心して暮らせる社会の構築を実現することを目標としました。

増える続ける糖尿病患者と治療の実態

2007年国民健康・栄養調査によると、我が国の糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる人)は約890万人、糖尿病の可能性が否定できない人が約1,320万人、両者を合わせると約2,210万人です。40歳以上で糖尿病が強く疑われる人のうち、「治療放置」または「治療中断」の割合は4割を超え、糖尿病性腎症により新たに血液人工透析が必要になった患者数は年間16,247人、糖尿病網膜症により失明にいたった患者数は年間2,221人でした。

日本糖尿病学会の診療ガイドラインでは、HbA1c(NGSP)8.4%以上が持続する場合、血糖コントロール不可の状態であるとして、教育入院等治療法の見直しを求めています。しかし、仕事を休めず教育入院できない患者がおり、そうした人たちは合併症の併発リスクが高まっています。ひとたび重篤な糖尿病合併症が併発すると、就労継続は困難になります。

職場の理解

「病気で長期療養が必要ということを報告した後日、解雇を言い渡された」「通院するためには会社を休まなければならず、有給休暇を使いきった後の通院は欠勤せざるを得ない」「自分のキャリアに不利となるため、病気を隠し、治療を中断した」。この種の話が実際にあるのです。ある調査によると、労働者が病気になった時の相談相手は「直属の上司」が最も多かったそうです。そうなると、上司の理解度が、患者の職業生活を大きく左右します。病気の理解を上司に求めるのは、マネジメントに負荷がかかりすぎるのではないかという見方もあります。いずれにしても、病気を言いだせる職場の風土づくりがまず必要と言えそうです。

治療と仕事の両立社会をめざして

厚生労働省は8月に、「治療と職業生活の両立等の支援に関する検討会報告書」を公表しました。治療を受けながら就労する労働者の円滑な職場復帰や治療と職業生活の両立のために、関係者がどのように対応し、連携を図るべきか、また、それを促進するための支援策の在り方等を取りまとめました。

〔報告書の主な提言内容〕
○企業(人事労務担当者)

  • 労働安全衛生法上の措置を徹底し、労働者の疾病の早期発見・早期治療や重症化防止に努める。
    ・治療と職業生活の両立に理解のある職場風土形成のため、労働者・管理監督者の教育に努める。
  • 早期の職場復帰及び復帰後の治療と職業生活の両立を促進するため、時間単位の有給休暇制度や短時間勤務制度の導入など、柔軟な雇用管理の取り組みを進める。

○産業医・産業保健スタッフ

  • 人事労務担当者と協力し、治療開始の促しや治療中断に対するアプローチなど定期健康診断後のフォローアップを実施する。
  • 労働者の職場復帰や復帰後の治療と職業生活の両立に関しても、専門的知識の蓄積を図り、積極的に医療機関と連携を図る。
  • 保健師は、産業医以上に労働者へ身近な相談相手として、積極的に労働者本人と接触し、産業医や人事労務担当者、医療機関との連携を図る。
○医療機関(主治医)
  • 職場復帰や、復帰後の治療と職業生活の両立に関する相談体制を整備するよう努める。
  • 患者の就業状況を把握した上で、治療方針決定に際し、仕事を休まずに治療を受けられるよう配慮する。
○労働者(患者)
  • 健康診断の受診の機会等を通じて、日頃からの疾病の予防、早期発見、重症化防止に努める。
  • 積極的な情報収集や、両立促進のための企業と医療機関の情報共有・連携に協力する。

提言内容を踏まえ、現状とあるべき姿のイメージを図示してみました。線の太さは、情報(相談)の量や質の程度を表します。

(現状)

(あるべき姿)

そもそも「治療と職業生活の両立」とは何かを確認しておくと、「病気を抱えながらも、働く意欲・能力のある労働者が、仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また、治療の必要性を理由として職業生活の継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら、生き生きと就労を続けられること」です。本当に両立は可能なのかという疑問の声もあがっています。企業規模により、長期休職者を支援するための経済的負担感は差がありますし、人事労務体制や産業医・産業保健スタッフ体制の充実度も違います。また、非正規雇用者をどうするかという課題もあるでしょう。

しかし、それらの課題を一つひとつ乗り越えて、「治療と仕事の両立社会」が実現すれば、それは「超高齢社会&人口減少社会」を生きた日本人の知恵として、長らく称賛されることになるであろうと期待しています。

(2012/09/11)

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