2012年11月(vol.34):仕事の夢と誇りとメンタルヘルス

 

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仕事の夢と誇りとメンタルヘルス

仕事の夢

20年ぐらいまえ、私は海外の空港で乗り継ぎにあたふたしていました。まわりを見渡しても、外国の人だらけで案内板も英語かアラビア語みたいな文字だけでした。気を落ち着けて窓口をみると、日本人らしき男性が私と同じように茫然と突っ立っていました。私は地獄で仏に出会った気分で近づいていくと、その日本人らしき男性の様相は、髪型は剃り込みが見事に入った角刈りで、金のネックレス、黒のシャツ、黒のパンツでした。「しまった」と思いましたが、その人物と目が合ってしまったので、勇気をだして声をかけました。するとその男性は「自分は、乗り継ぎで困っているのですが、この格好なので誰も声をかけてくれない。こちらから話そうとしても日本人はみな逃げてしまう。声をかけてきたのはあなただけだ」と意外にも丁寧に話されました。

そこで、お互い困っているのだから協力して「この場を切り抜けよう」ということになり、なんとか飛行機の乗り継ぎに成功しました。また偶然にも、その人物と同じ飛行機、同じホテルとなりました。ホテルに着いた夜、その男性と酒を飲みながらいろいろな話をしました。その方は、「昔はいろいろ馬鹿なことをやって大勢の人に迷惑をかけてきたが、振り返ると何も残るような事はしていなかった。そこで一念発起し、大型運転免許をとり、寝る時間を削って大型トラック運転に励んだ。そして今やっと、大型トラックを一台持てるようになった。これから資金をためて、仕事を広げてゆきたい」と。そして、将来子どもができて、「ものごころ」がついたら、まず真っ先に、自分のトラックの助手席にのせ、「これがおやじの仕事だ!と誇りをもって言いたい」と力強く話されました。

仕事の誇り

最近、研修講師の仕事を通じて出会った方々に「あなたの仕事の誇りは何ですか?」とお伺いする事があります。たいていの方は、悩まれ即答はされません。私自身、逆に聞かれても即答できない質問だと承知しています。よくある答えとして謙遜もあると思いますが、「安月給だし、そんな誇れる仕事でもない」とか「ただ生活のために働いている」と答える方が多いように思います。

「仕事の誇り」は、企業の知名度や給料の高低だけで決まるものなのでしょうか。これまでの仕事を一度振り返ってみて下さい。

仕事を通して「自分が精神的に成長した」と感じた体験はありませんか? 

仕事で困難に直面し、それを乗り越えた時「喜び」を感じませんでしたか?

その困難を乗り越えるとき、皆さんを支えてくれた仲間や家族に「感謝」の気持ちが生まれませんでしたか?

もしかすると、その時こそ仕事の誇りが生まれた瞬間だったのかもしれません。

少し哲学的になりますが、私は、「仕事の誇り」とは、「個人が自分の体験を通して、自分自身で答えを見つけるもの」ではないかと思います。そして、必ず答えはあるものだと思います。

メンタルヘルス

就職活動をしている学生に「あなたの夢は何ですか?」と聞くと、「正社員になることです」と答えることが多くなったと言われております。「失われた10年」以降、就職活動には大変厳しいものがあります。正社員になった学生が、入社後目にするものが、「ただ生活のために働いている」先輩社員や管理職ばかりなら、新入社員は「将来の夢」を描くのは容易ではありません。「仕事の誇り」や「喜び」を感じることすら難しくなるかもしれません。

「メンタルヘルス対策」では「予防」がメインになっています。そのために「早期発見、早期対応」の重要性がうたわれています。この考えは非常に重要だとは思いますが、何か物足りなさを感じずにはいられません。

例えば、自動車の運転をイメージして下さい。「交通事故を起こさないために」をスローガンとした交通安全キャンペーンを毎年見かけます。これはメンタルヘルス対策ですと「病気にならないために」という予防です。では、「交通事故を起こさない事」だけに注意すれば、初心者は車の運転ができるのでしょうか。そもそも「車の運転は楽しいものだ」という感情的・精神的な支えと、「運転技術」がなければ、車の運転はできません。そこに「事故を起こさない」という意識が加わることが大切だと思うのです。

では、今の職場で、「仕事の誇り」「喜び」「成長」という「感情的・精神的な支え」は意識して伝えていらっしゃいますでしょうか。もしそれがなければ、「仕事はストレスだ」「仕事で心の病になる」ということばかり強調することになります。私は「仕事の夢・誇り・喜び」といった精神的な支えと、「メンタルヘルス(心の健康)」との両輪が必要だと感じています。

さいごに

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、先日、テレビのドキュメントである木工所の社長さんが、「技術だけ教えるなら、早い時期に数多く教えればよい。しかし人間をつくらないと、いくら教えても役には立たない」というようなことをお話されていて、大変印象的でした。

「人間をつくる」ということを私なりに解釈しますと、単に「ロイヤリティー」・「コミュニケーションスキル」・「内発的動機づけ」などの向上といったものではないと思います。人間は、「仕事を通じて、感謝、喜びを感じ、心の成長を実感できる精神的な土台づくり」の場があってこそ養われるのではないかと思っています。そして人間づくりの場では、先輩として仕事を体験されてこられた皆さまが、「伝える」という役割というのが大変重要になってくるのではないかと考えます。

(2012/11/16)

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