2013年11月(vol.46):幕末から現代へと伝承されるヘルスリテラシーの教え

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幕末から現代へと伝承されるヘルスリテラシーの教え

最近、にわかに注目を集めている「健康経営」という概念をご存知ですか。企業が持続的な成長を図るために実施する、従業員の健康に配慮した経営手法のことです。1992年、アメリカの経営学者ロバート・ローゼン氏が著書『ザ・ヘルシー・カンパニー』で、従業員の健康増進が生産性や収益性の向上につながると提唱しました。

従業員の健康状況を把握しはじめると、見えてくることがあります。「忙しくて健診を受ける時間がない」「健診で要受診といわれても症状はないし、少しくらい無理をしても大丈夫」などという従業員の存在です。特に、20~30代の働き盛りの世代では、そもそも病気がある人は少ないうえに、仕事やキャリアアップへの関心が高く、どうしても健康は後回しになりがちです。その結果、残業が増え、食事が不規則になり、睡眠や運動の時間が減ります。こうした生活習慣が続くうちに、症状のないまま、しかし身体の中では着実に病的な状況が進行していきます。

こうした現状を打開し、健康経営を推進する可能性を秘めているのが「ヘルスリテラシー」です。ヘルスリテラシーとは、個人が健康課題に対して適切な判断をくだすために必要となる、医療・健康に関する情報やサービスを収集して、それらをうまく読み解き、利用できる能力のことです。

米国の研究では、ヘルスリテラシーが低いと生活習慣の改善などのセルフケアが乏しいことや、適切な時期に適切な医療を受けられなくなり、健康状態は悪化し、重症化してから受診するため、救急外来や入院医療の利用が多くなって、医療費の高騰を招く一因になると報告されています。

みなさんは、降水確率が何%なら傘を持って出かけますか。雨が降る、降らないという現象は白黒2つに一つですが、例えば降水確率30%は、白(降らない)に近いですが、灰色です。私たちは、天気予報という灰色情報がどれくらい白に近い灰色か、あるいは黒に近い灰色かを見極め、意思決定を行っています。その意思決定は、エビデンス(根拠)、バリュー(価値観)とリソース(資源)という3つの要因で決まると言われています。すると、エビデンスは降水確率、バリューは「雨に濡れるのは嫌だ」とか「もし降ったら傘を買えばいい」など、リソースは折り畳み傘とそれを買う現金の有無、交通手段などとなります。この3つの要因のバランスを考えたうえで、傘を持参する・しないの行動をとっているのです。健診後の受診行動のケースでは、健診結果はエビデンス、仕事優先・健康過信などがバリュー、受診にかかる費用や時間、医療機関情報などはリソースとみることができるでしょう。

それでは、ヘルスリテラシーを高めるにはどうしたらよいのか。ヘルスリテラシーの向上には、医療・健康情報を正しく理解できるようになるだけではなく、医療・健康情報に接する機会を積極的に増やし、それを効果的に活用し実践することです。その意味では、健診は本来、ヘルスリテラシーを高める絶好の機会といえます。しかし、受診者は健診結果を読み解き、活用する方法の教育を受けていませんし、医師は外来で健診結果について十分に説明する時間がとれないのが実態です。

大切なことは、ヘルスリテラシーの課題は、個人のスキル向上だけに責任を負わせてはならないということです。ヘルスリテラシーの向上には、情報やサービスの送り手と受け手のコミュニケーションも重要であり、医療側が、個人にいかにわかりやすく伝えていくか工夫、改善するかが問われています。

舞台を幕末に転じると、ヘルスリテラシーの精神を教えていた人物がいます。松下村塾を主宰し、多くの人材を輩出した幕末の思想家・教育者の吉田松陰です。「自分の眼で見、耳で聞かないことは、決して自分の意見として提出してはいけない」と教え説きました。現代風に翻訳すれば、「インターネットなどの情報を盲信せず、自分の目と耳で正しい情報、真実を見極めたうえで、自分の意見をもつべきである」となるでしょうか。時代を読み解く先見性と類まれな行動力で、維新の先駆者となった吉田松陰ですが、その教えは150年の時を経て、私たちにも向けられていたのです。

(2013/11/21)

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