2017年12月(vol.95):お笑い芸人に学ぶストレスマネジメント―「35億」を心理学的視点で考える

 

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 最近人気のお笑い芸人のネタで、「35億」というのがウケているのをご存知でしょうか。振り向きざまに「35億」と言うネタがあるのは知っていましたが、私はその内容を知りませんでした。ぜひ機会があればご覧いただきたいのですが、このネタは心理学的にはストレス対処の中でも認知的コーピングにあたります。

ストレスとは?
原因とそれによって起こる反応

 まず、ストレスとは何かを簡単にご説明します。ストレスという言葉は日常語として使われていますが、正確には、ストレスの原因(ストレッサー)と、それにより起こるストレス反応に分けて考えられています。

 ストレッサーは「環境変化による刺激」と言い換えられます。それは話し声、音楽など聞こえるものや触れるもの、味などを指します。わたしたちは環境変化による刺激(=ストレッサー)を受けながら日々暮らしています。つまりストレッサーのない生活は基本的にはないということになります。

 ストレス(ストレッサー)と言うと、一般的には悪いイメージを思い浮かべることが多いと思いますが、刺激ですからそれだけでは良いも悪いもありません。ただし、環境変化による刺激の解釈(意味づけ)によっては負担に感じることがあり、それが積み重なるとイライラする、気が滅入る、胃が痛い、などのストレス反応が起こります。こうした出来事に対する解釈を心理学では「認知」と呼んでいます。

例えば、

(事実)朝、上司に挨拶したのに足早に通り過ぎてしまった。

(認知)無視された!先週依頼された仕事を断ってしまったので怒らせてしまったかもしれない。

(感情)気まずい、不安に感じる。

(行動)交流を避けるようになる。

(身体反応)胃が痛い、眠れなくなる。

上司が挨拶を返してくれなかったのは事実かもしれませんが、それを「怒らせた」と認知しなければ必ずしも負担を感じることはないはずです。「聴こえなかった」「忙しくてそれどころではなかった」「声が小さくて返した挨拶が聞こえなかった」という可能性もないとは言えません。

ストレスコーピングとは?

行動を起こし対処すること

 私たちはストレッサーによって、すぐにストレス反応を起こすわけではなく、なんらかの対処行動を取っています。これがストレスコーピング(対処方略)です。

 ストレスコーピングには認知的コーピングと行動的コーピングがあります。認知的コーピングは、認知を変えてみることで対処しやすくすることで、行動コーピングは誰かに相談する、上司に直接聞いてみるなど、行動を起こして対処することを指します。

 同じ状況、問題に直面した時に、Aさんは上手に切り抜けられ、Bさんは不安で落ち込んでしまうことの理由として、受けたストレッサーに対する認知とそれによる行動が違うから、という説明が成り立ちます。

認知を変えられないと?
「睡眠薬がやめられません」

 先日、ある方(Cさんとします)からご相談をお受けしました。うつ病で服薬治療を続け、回復してきたのですが、治療開始時から処方されていた睡眠薬をやめることができないとのご相談でした。

 

私  :睡眠薬を飲むとよく眠れるのですか?

Cさん:はい。飲まないと、また眠れなくなるのではないかと思うとやめられません。

私  :(服薬して)眠れるようになるのですね。逆に、起きづらくなるなど困ったことはありますか?

Cさん:いいえ、特にありません。

私  :では、飲み続けてもいいのではありませんか?なぜやめたいのですか?

Cさん:薬を飲まないと眠れない状態は、健康とは言えないと思ってしまって……。

私  :主治医にご相談いただくのが前提ですが、服薬すれば安心して眠れるなら、やめる必要はないと思いますよ。きちんと睡眠が取れ、仕事や日常生活を支障なく送れれば問題ないのではないですか?そもそも、睡眠薬を飲んでいると健康とは呼べないのでしょうか。私はそうは思いませんよ。

Cさん:……言われてみればその通りですね。なんだかすっきりしました。

 

 Cさんの場合、「睡眠薬を飲むと眠れる」という状況に対して、「睡眠薬を飲むことは健康でない」と認知して悩んでいたことになります。そこで認知を変えることで、気持ちが楽になったケースです。

余裕がないとき、どうなる?
私たちは視野が狭くなります

 Cさんが陥っていたのは、心理的視野狭窄と呼ばれる状態です。「もうだめだ、おしまいだ」「取り返しのつかないことになってしまった」と愕然としたときに、頼りになる同僚や上司、友人たちが、違う視点からの一言をくれ、ぱっと視野が広がった経験はないでしょうか。これが「認知が変わった」ということです。失恋に沈む女性の友人にエールを贈る「35億」のネタは、まさにこれに類するものです。

 天才と呼ばれる人物の言葉の中には、比較的多くの人が持っているものとは異なった認知を示しているものがあります。こうした言葉が、あなたの認知を変えるきっかけになるかもしれません。

★トーマス・エジソン

私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまくいかない方法を見つけただけだ。

★イチロー

壁というのは、できる人にしかやってこない。超えられる可能性がある人にしかやってこない。だから壁がある時はチャンスだと思っている。

 ある種、見事な認知コーピングだと思います。お笑い芸人のネタにはこうした通常とは違った認知に立つものが少なくありません。そういう視点でお笑い番組を観てみるのも楽しいかもしれません。

 

(2017/12/12)

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