2018年4月(vol.99):ホーキング博士は喫煙者を称えたか?

 

他のコラムを見る

保健師という職業柄、喫煙者に禁煙指導をすることがある。喫煙が健康に良くないことは、国内外でも多くの科学的知見によって証明されている。しかし、日本人の喫煙率は、先進諸国と比べると依然として高い。様々なエビデンスを引き合いに出し、「禁煙しないと、肺がんに罹りやすくなります」などと、通り一遍の禁煙を勧めてみても、煙たがられてしまう。たとえ、喫煙を依存と捉え、医学的・心理学的アプローチにより禁煙に成功しても、何かのきっかけで再び喫煙者に戻ってしまうことが少なくない。物事には表と裏がある。逆説的に考えることで、また違ったアプローチが見えてくることもある。

たばこ吸殻ポイ捨て場の原風景

週末早朝に自宅近くの駅周辺で清掃ボランティアをしている。ごみの中でも厄介なのがたばこの吸殻である。雨に濡れてたばこの葉が露出して路面に流れ出たり、葉が乾燥して撒き散らされたりすると、汚れもさることながら悪臭も漂う。

少し路地に入るあたりが、人目につきにくいからであろう、格好のポイ捨て場になっている。吸殻は吸殻を呼ぶのだろうと考え、他のごみには多少目をつぶっても、たばこの吸殻だけはゼロにしようと必死になる。ところが1週間後、ポイ捨て場は見事に”賑わい”を取り戻す。たばこの吸殻が散乱する風景が再現され続けるわけだが、そのたびにいかんともし難い敗北感にさいなまされる。

ユーモアがない人生は悲劇

折しも、理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士が3月14日に逝去し、76年の生涯を閉じた。宇宙は何故、どのようにして誕生したのかという宇宙の根源的な問いに挑み続け、数々の常識を超える理論を発表し、宇宙誕生の扉を開いた。21歳のとき、ALS(筋委縮性側索硬化症)を発症したが、「初めてALSと診断された時、余命は2年だっだ。45年後の今、私はかなり元気だ」と話すなど、科学への貢献のみならず、「ユーモアがない人生は悲劇である」と言って、常にウィットを忘れない英国紳士でもあった。

あるインタビューの中で、「地球外知的生命体の存在についてどう考えるか?」とたずねられ、「地球上に知的生命と呼ぶに値するものなど存在するのか?」 と答えたエピソードも。そこで、ホーキング博士に「わが国の喫煙者の存在についてどう考えるか?」と聞いてみたら、どう答えるだろうかを想像してみた。

ホーキング博士の”逆説的”喫煙理論

「平成28(2016)年度の医療費が41兆円を突破し、日本国民の負担がさらに重くなると危惧される。その中で、さまざまな病気を引き起こす喫煙者の医療費が取り上げられることがある。確かに、喫煙者の医療費は非喫煙者に対して多いであろう。ところが、一生で考えると高くはなく、むしろ低いかもしれない。

喫煙者が国全体の医療費を引き上げているかのような論調もあるが、実は喫煙者の寿命は非喫煙者と比べて10年ほど短いので、一生を通じてみると医療費の総額はあまり変わらないのではないか。また、受け取る年金も10年分少なくなる。端的に言えば、死んでしまえば医療費・年金などの社会保障費が必要なくなるので、トータルでの受給はむしろ少なくなる。

それに加えて、たばこ税を払っているので、ある意味では非喫煙者より国に貢献しているかもしれない。もちろん受動喫煙を介して他人の健康に害を及ぼすのは控えてほしいが、決められた場所で喫煙するのは自己責任の範囲で認められることである。喫煙者の寿命は10年ほど短いといっても生産年齢は全うできるので、十分に社会に貢献できる。

喫煙者が社会保障費を多く使っているというのは”根拠のない迫害”である。つまり、喫煙者は社会に”貢献”している」。

さて、仮想ホーキング博士によるこの逆説的な喫煙理論を聞いて、喫煙者はどう感じ、どう行動するだろうか。その結果を知った宇宙のどこかにいるホーキング博士が、「地球上には知的生命と呼ぶに値するものが確かに存在していた」と発言を修正したら、しめたものである。

(2018/4/19)

ページのトップへ

関連サービス
  • EAP
    従業員のこころとからだの健康をトータルで支え、よりよい職場づくりをサポートします
  • MOSIMO
    メンタルヘルス不調者が長期休職したときの企業のコストを試算するこができるツールです

ページのトップへ

ページ上部へ戻る