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「新型コロナウイルスに関連した感染症」情報
―トイレットペーパー買占め行動について―

2020年3月6版

トイレットペーパー買占め行動を説明するための思考的試み

新型コロナウイルスによる感染拡大に関する「デマ」が発端となって、トイレットペーパーが店頭から消えるという事態が全国各地で起きています。一体、なぜこのようなことが起きてしまったのでしょうか。

合成の誤謬(ごびゅう)

それを説明するには、経済学の「合成の誤謬」という概念が役立つ可能性があります。「マスクの次はトイレットペーパーが足りなくなる」という噂が流れ、それを信じた消費者がトイレットペーパーを大量に購入し、本当にトイレットペーパーが店頭からなくなりました。メーカーは写真を見せて「在庫は十分あります」と訴え、政府は「冷静な対応を」と呼びかけても、人々は急いで買いに走りました。実際、トイレットペーパーは店頭から消えてしまったので、早めに買った人は経済学的には合理的な行動だったといえます。劇場で火災が発生した時に、観客が出口に向かって殺到し、かえって被害は大きくなったという話と同じで、観客は自分の命を守ろうと合理的に行動をしているため、劇場主が「走らないで」と呼びかけても、もはや聞く耳を持ちませんでした。

予言の自己成就

もう一つ、社会学の「予言の自己成就」という概念もトイレットペーパーを巡る騒動のからくりを説明するのに役立つ可能性があります。それは、たとえ根拠のない予言や期待であっても、本人や周囲が信じて行動した結果、その通りの現実が生まれてしまうという考え方です。「私たちの行動のもとになる事実は、社会的に構成されたもので、いつも客観的な事実(真実)をとらえているのではない。多数の人が信じていることや、予期に合致するものを事実として扱っている。また、人々が実際にとった行動は、次の行動の考える上の手掛かりとなり、事実が次の事実を生むループ構造が生まれ、社会的な事実がどんどん増幅されて、いずれ現実になる」という考え方です。そうすると、実際には生産量に問題がなかったにもかかわらず、なくなるかもしれないという不安が広がり、買いだめに走る騒ぎになり、本当に日本中のお店からトイレットペーパーが消えてしまったと説明がつきそうです。

【本日の用語解説】

合成の誤謬(ごびゅう)

ミクロ(個人や1企業)の視点では正しいことであっても、それが合成されたマクロ(経済全体)の世界では、必ずしも意図しないまたは良くない結果となる事例のこと(経済学用語)。例として、個人の貯蓄行動は個人の貯蓄額を増やしますが、貯蓄に回した分、消費が減り、市場全体の総需要(売り上げ)が低下につながること。

予言の自己成就

社会学者ロバート・K・マートンが提唱した概念で、「自己成就的予言(self-fulfiling prophecy)とは、最初の誤った状況の規定が新しい行動を呼び起こし、その行動が当初の誤った考えを真実なものとすることである」と定義した。

監修:寺下 謙三(寺下医学事務所 代表)

参考

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